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「GGTニュースレター」No.42(2000年12月15日発行)より
絶滅のおそれとはどういうことか:その基準づくり
マグロが絶滅する?
 今から35億年前に、この地球にはじめて生命が誕生して以来、生物は誕生と絶滅を繰返してきました。現在の生物の種数は1千万弱と推定され、これまで約5億種の生物が誕生したと推定されることから、約4億9千万種の生物が絶滅したと考えられます。したがって、生物の絶滅のほとんどが自然現象であると言っていいと思います。
 しかし、ここ2世紀ほど、とくに今世紀になって、人為的要因による絶滅が大量に起こるようになりました。絶滅のおもな要因は、生息環境の破壊と外来種との競合であることがわかっています。絶滅に至る直接の要因としてはこれらふたつの要因ほど重要ではありませんが、人間による生物の捕獲も対象種の数を大きく減少させる主要因として特定されてきました。
 96年にマスコミ各紙は、国際自然保護連合(IUCN)がマグロを絶滅のおそれのある種として指定したことを大々的に報道しました。マグロが食べられなくなるのではないかと、過剰に反応をした人たちもいたようです。しかし、一般感覚として、トキのような種とマグロのような種がはたして、同じように絶滅の危機にひんしているとはとうてい考えられないと思われた人たちも多かったものと思います。
 
IUCNとレッドリスト
 IUCNでは、「絶滅のおそれ」に関する客観的な基準づくりに取り組んできました。そうした基準にもとづき、絶滅のおそれのある生物を本にまとめたのがいわゆる「レッドデータブック」と言われている冊子です。最近は生物の種名を掲載した本が出版されており、「レッドリスト」と呼ばれています。
 客観的な基準が作成されたのが94年で、以下この基準を旧基準と呼ぶことにします。96年にIUCNがマグロをレッドリストに載せたのは、この旧基準にもとづいてのものでした。IUCNでは、いろいろな生物をグループごとに、絶滅のおそれがあるかどうかを調べています。
 96年にIUCNの総会がモントリオールで開かれたときに、94年の旧基準の見直しを勧告する決議が採択されました。この決議にもとづき、一連の作業部会が開催されました。その一環として昨年1月には、IUCNとGGTが協力し、東京で海産種に関する会議を開きました。今年10月にヨルダンであるIUCN総会に向けて、見直し作業が完了したところです。
 
表1.1994年採択のIUCNレッドリスト掲載基準
基準
危機的絶滅寸前(CR)
絶滅寸前(EN)
危急(VU)
A 急激な減少
10年または3世代で20%以下に減少
10年または3世代で50%以下に減少
10年または3世代で80%以下に減少
B 狭い分布域(寸断、連続的減少、大きな変動あり)
分布域が100Km2未満または生息地が10Km2未満
分布域が5,000Km2未満または生息地が500Km2未満
分布域が20,000Km2未満または生息地が2,000Km2未満
C 小集団(連続的現象あり)
成熟個体250未満
成熟個体2,500未満
成熟個体1万未満
D1 とくに小集団
成熟個体50未満
成熟個体250未満
成熟個体1,000未満
D2 とくに狭い分布域
 
 
生息地が100Km2または5か所未満
E 個体群存続可能性分析の予測
5年間の絶滅確率が50%以上
20年間の絶滅確率が20%以上
100年間の絶滅確率が10%以上
 
レッドリストの問題点
 レッドリストの問題は、その基準自体がはたして適切かどうかということと、その基準をはたして客観的に適用したかどうかのふたつあります。いくら客観的な基準が作成されても、それをまちがって使った場合には、その結果はけっして妥当なものとは言えないはずです。各地で猿害を起こしているニホンザルもこの旧基準にもとづき、絶滅のおそれがあるとされましたが、これは基準の適用のしかたを誤ったためと思われます。
 旧基準をそのまま当てはめると、日本の各地にふつうにあるアカマツは絶滅危惧種になります。また、それ以外の樹木についても、レッドリストを作成しようという動きがあり、ヒノキまでもが絶滅のおそれがあるカテゴリーに掲載する候補種として取りざたされた経緯があります。
 したがって、ある種が絶滅の危機にほんとうに瀕しているか否かを判断するさいには、客観的な基準を作ることと、それを適正に当てはめることを確保することが必要です。どちらかと言えば、これまではいかに客観的な基準を作るかに焦点が当てられていましたが、IUCNでは基準の当てはめかたに正当性があるかどうかをチェックするために、作成されたレッドリストに対して異議申立てをできるしくみを導入しました。
 
CITES基準の見直し作業
 ところで、91年にジンバブエの片田舎で専門家による小さな会議が開かれました。その場で、ワシントン条約(CITES)の附属書I、II掲載の基準をより客観的にするべきではないかという意見が出されました。その翌年、京都でワシントン条約の締約国会議が開催され、附属書掲載の新基準を作成するよう勧告する決議が採択されました。ちょうどIUCNでもレッドリストのための基準作成にとりかかっていたこともあって、IUCNがワシントン条約附属書掲載基準の原案を作成することが決まりました。
 ワシントン条約では、その原案をもとにいくつかの会議を経て、94年に開催された締約国会議で最終的な基準が採択されました。同じ決議のなかで、2002年の締約国会議までに新たに見直すことがうたわれました。今年4月にナイロビで開かれた第11回ワシントン条約締約国会議で、この見直しの手続きが決まりました。それによると、動物委員会と植物委員会から各地域ごとにそれぞれ1名ずつ、さらに4人までの専門家をくわえ、作業部会を設置することになりました。
 同じナイロビでの会議では、4人の専門家のひとりとして、最近、豪政府を辞したハンク・ジェンキンス氏が選ばれました。かれは、さらにこの作業部会の委員長にも任命されました。
 94年に採択された基準は、海産種にとっては不適当ではないかという懸念があり、このため、国連食料農業機関(FAO)でも独自に基準の見直しをはじめました。その第1回目の会合が6月終わりにローマのFAOで開催されました。
 
表2.1994年採択のワシントン条約附属書I掲載基準
大基準
小基準
A 野生個体群が小さく(5,000頭以下)、次の特性のひとつに合致する。
  1. 個体数または生息地の面積と質に関して、減少(10年または3世代で80%以下)が観察、推定あるいは予測される。
  2. 各亜個体群が非常に小さい(500頭以下)。
  3. 個体の大部分が生活史のある段階でひとつの亜個体群に集中する。
  4. 個体数が、短期的(2年以下)に大きく(1桁以上)変動する。
  5. 種の生態や行動などにより脆弱性が高い。
B 野生個体群が限られた分布域(10,000Km2以下)をもち、次の特性のひとつに合致する。
  1. 分断化(各亜個体群が500Km2以下)もしくはきわめて少数の場所に分布。
  2. 分布面積もしくは亜個体群の数が大きく変動(1桁以上)する。
  3. 種の生態や行動などにより脆弱性が高い。
  4. 個体数が、短期的(2年以下)に大きく(1桁以上)変動する。
  5. 分布面積、亜個体群の数、個体数、生息地の面積や質、繁殖能力のいずれかの減少が、観察、推定あるいは予測される
C 野生の個体数の減少(5年または2世代で50%以下)が次のいずれかである。
  1. 減少(5年または2世代で50%以下)が現在進行中か、過去に生じた(再発の可能性がある)ことが観察されている。
  2. 生息地の面積と質の減少、捕獲採取のレベルもしくはパターン、病原体、競合種、寄生虫、交雑、捕食者、帰化種や毒物、汚染物質の効果などの外的要因により、減少(5年または2世代で50%以下)が推定あるいは予測される
D 種の生息状況が悪く、もしその種が附属書Iに掲載されない場合は、5年以内に上記の基準のどれかに合致する可能性が高い。
 
 
表3.1994年採択のワシントン条約附属書II掲載基準のおもなもの
大基準
小基準
A その種の取引が厳しい規制の対象としない場合、近い将来、附属書Iの基準のどれかに該当することが、知られており、もしくは推定、予測される。
 
B 次のことにより、国際取引のための野外からの捕獲採取がその種に重大な悪影響をおよぼすことが知られており、もしくは推定、予測される。
  1. 長期間にわたり、永続的に続けることのできる捕獲レベルを上回っている。
  2. 捕獲により個体数が減少し、その生存がほかの影響により脅かされるレベルにまで減少している。
 
FAO会合の概要
 そもそも、新基準を商業魚種などの海産種に適用することは不適切ではないかとの懸念は98年にブレーメンで開かれたFAO水産物貿易小委員会で南ア政府により提起されました。その後いくつかの会合を経て、FAOでは3人のコンサルタントに依頼し、基準の見直し素案を作成しました。今回の会合では、この素案をもとに議論がおこなわれました。
 6月の会合には37か国が出席、オブザーバーとして、UNEP、ICCAT、IUCN、WWF、IWMF、グリンピースなどが参加しました。ワシントン条約事務局から事務局次長ほか2名の職員が参加していたという事実は、事務局としてもこの会合を重視している証拠だと思います。
 会議は6月28日にはじまり、マレーシア代表が議長に選ばれました。議長は参加者から一般的なコメントをまず求め、その後コンサルタントが作成した見直し文書の各論を議論することになりました。FAO事務局は、今回の会合は技術的な議論をおこなうことであって、文書のなかでとくにCITESの役割についてふれられている個所については、CITESが独自におこなうことであって、FAOは議論するべきではないと示唆しました。
 さまざまな議論のすえ、3日目の夜に最終的にFAO水産委員会への勧告と本会合の要約議事録が採択され、会議が終了しました。勧告の重要なものとしては、新たに絶滅確率による基準を作成するべきだということになったこと、基準の見直しに当たっては漁業専門家を関与させること、ワシントン条約附属書改正のための提案作成にさいして国内の漁業専門家の関与を保証することなどがあげられると思います。
 
おわりに
 今回のFAOでの議論は、来年2月に開かれるFAO水産委員会に報告されます。そこで、また新たな議論がなされるものと思われます。一方、ワシントン条約による基準の見直しのための非公開の作業部会が8月はじめに豪のキャンベラで開かれました。FAO会合にも出席した南ア・ケープタウン大学のダグラス・バタワース教授が専門家として、この会議に招待されました。FAO会合での見直し結果は必ずしもCITESが受け入れる義務はありませんが、FAOでの議論を無視するわけにはいかず、今後何らかの形でCITESでの議論のプロセスに盛り込まれることになると思われます。同時に、IUCNのレッドリスト掲載基準にも将来、影響を及ぼすものと思われます。そういう意味で、今回のFAO会合は非常に重要な会議であると位置づけることができます。この12月には米国で、8月のキャンベラ会合の結果を受けて、CITESの動物委員会、植物委員会の合同会議が開催されることになっています。今後とも、IUCN、FAO、ワシントン条約の動きに注意を払っていくことが必要です。
 
GLOBAL GUARDIAN TRUST/一般社団法人 自然資源保全協会