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セラフィ

中札内ライディングクラブのオーナー・山口佳男は乗馬歴30年、おまけに獣医なので馬の扱いは慣れているものの、妻の私は馬についてはド素人。自宅の一角で馬を飼う生活をしながら、私と馬が体験した様々な出来事や驚きをちょっと綴ってみようと思います。

第1話

1998年5月  リッピー大怪我!

 春、帯広市内の乗馬クラブ・柏友会で、十勝馬術連盟主催の恒例の競技会が開催された。柏友会には国体に選手を出すほどの名選手がおり、また大会には名門・帯広畜産大学馬術部も出場するとあって、ローカルな親睦競技会とは言えレベルが高く、騎乗者はおのずと力が入る。わがクラブのS君もリッピーで障害競技にエントリー、優勝をかけたジャンプオフにも残り、7つ目の障害を華麗に跳び越えていた。が、それは8個目の障害で起こった。
 踏み切りで泥に足をとられ、障害に衝突。落ちかけたバーがさらに後肢にからまり、馬は転倒。S君も顔から地面に叩き付けられた。競技は一時中断。S君は病院へ運ばれ、検査の結果、打撲と擦り傷で治療を受けた。一方のリッピーはと見ると、右後肢が地につかず、痛さのためか人間を寄せ付けない。周りからは「駄目だ」「骨折だろう。安楽死だな」という声が聞こえる……。
 結局、リッピーの怪我は骨折ではなくて脱臼らしい。とは言え、馬にとって足の怪我は致命的だ。馬房に入れてギブスをあて、絶対安静の日々。数日後「もうそろそろ…」とギブスをはずすが、少し歩いただけでまた関節をはずす。そんな事が何度も繰り返されなからも、日に日にリッピーの食欲はなくなり痩せていく。「安楽死」そんな言葉が頭をかすめ、家の中の空気も重苦しい。「ちゃんと歩いてよ。じゃないと殺されちゃうんだよ」馬房のリッピーに、涙ながら声をかける日が続いた。
 2ヵ月後、ギブスをはずしても何とか歩ける様子にまで回復し、馬房から出して群れに戻す。しかしまだ安心とはいえない。障害なんて跳べなくていい、せめて人を乗せて歩けるようになれば…。
 馬はペットではなく家畜だ。ましてこの大きな馬を食べさせていくだけでもかなりの費用がかかる。犬や猫のように、ただかわいいからというだで飼っているわけにはいかないのだ。
 「自宅で馬を飼っている」というと、大抵の人は「世話が大変でしょうね」と言う。わが家の飼育方法ではほとんど手間をかけていないし、会員も手伝ってくれるので「世話」での大変さはあまり感じられない。むしろ今回のように怪我をした時、その生死を決めなければならない時、死に立ち合ってしまった時、動物を飼う事の辛さを味わう。