馬房に入れてなかったのに…
中札内ライディングクラブには現在、14頭の馬たちがいます。セン馬(去勢して生殖能力のない牡馬)5頭、牝馬9頭(うち1頭は昨年生まれた仔馬)ですが、昨年牝馬3頭が妊娠し、今年の春は出産ラッシュを迎えることになってしまいました。当クラブでは馬を通年放牧しているため、馬房は出産用のものが1つあるだけ。一年に3頭も出産させることがなかったため今までは良かったのですが、今年はちょっと心配です。
母馬たちの乳もはってきて、1頭の出産が近づいてきた様子です。23日、出産用の馬房の準備しましたが、これまでの経験からあと2〜3日後に入れようということになりました。
ところが、24日朝。馬たちの様子がいつもと違うことに気づきました。全員がある一点に目をとめているのです。何とそこにはブロンディとその後をトコトコとついて歩く仔馬が…。どうやら放牧地の隅で産んでいたらしく、後産の跡もあります。
急いで馬の群れと引き離し、母乳をゆっくり与え、水を飲めるようにしてあげなければ…としますが、他の馬たちは仔馬に興味を示し、近づいてきては大騒ぎ。ようやく母馬ブロンディをつかまえると、仔馬もちゃんと後をついてきます。馬房に入れるとブロンディは水をゴクゴクと飲み、ホッと一息。仔馬に異常がないのを確認できて、私たちもホッと一息です。
まずはボスにご挨拶
翌日、天気が良かったので馬房から母馬と仔馬を出して、日光浴です。群れの馬たちは柵越しからじっと眺めています。そのうちにちょっと離れた所にブロンディが移動。群れのボス馬もそっと近づいてきます。「産まれた仔よ。よろしくね」と、さも挨拶を交わすように鼻面を突き出すブロンディ。その挨拶に応えるようにボス馬も、静かに仔馬を見守ります。
広い外の様子にオズオズしていた仔馬も、慣れた頃から元気に母馬の周囲を駆け回ります。乳を飲み、母馬の側でぐっすりと眠りにつく仔馬。我が家の飼い犬ウィリン(ゴールデンレトリーバー)は、仔馬の口の周りについたミルクをなめようとして、まとわりついています。
引き続きパルディナが出産・仔馬は虚弱です。
「馬の出産の瞬間を見たい」と、熱心な学生会員は毎日のようにクラブに足を運んでいました。
4月1日、バイトを終えてから泊まりに来たR子ちゃんに、夕食をごちそうした後、「じゃあ、ちょっと見に行こうか」と連れ立って馬場へ。午後9時頃でした。真っ暗な中を懐中電灯を持って行ったのですが、いつもは近くにいるはずのパルディナの姿が見えません。暗闇の中から「ブフォー、ブフォー」という唸り声が聞こえます。懐中電灯の光の中に見えたのは、まぎれもなくパルディナが出産しようとしている姿。仔馬の前肢が出てきているのが分かります。慌てて主人を呼びに、そしてビデオカメラを取りに家へと走りました。出産は人の手を介さなくても無事に終え、馬場の隅で産んだために仔馬をプラスチック製のソリに乗せて馬房まで運びこみました。母馬と仔馬が馬房に落ち着いた頃には、連絡を受けた学生会員たちが4、5名集まって、仔馬の様子を観察していました。
明け方まで馬の乳搾り
しかし、通常は1時間ほどで立ち上がり、初乳を飲むはずの仔馬ですが、なかなか母馬の乳に吸いつけません。肢がちょっと弱く、立ち上がっても不安定な様子。初めての子どものせいか、母馬のパルディナも仔馬が乳を吸おうとすると、逃げたり蹴ろうとさえします。数人で手を貸して乳の場所をさぐりあて、仔馬の口を添えてやっても、吸い付いて飲むことができません。
そこで馬の乳搾りです。人が絞った乳を哺乳瓶に移し、仔馬に飲ませます。胎便も硬くて浣腸や指を使って何とか出そうと苦労します。時間はすでに夜中の1時。学生たちは2時間おきに乳を搾って仔馬に飲ませる作業を、夜明けまで続けました。
朝、学生たちは授業のために帰り、主人は仕事へ出かけてしまいました。「仔馬は大丈夫かな」と恐る恐る馬房へと様子を見にいきました。中にはしっかりと足を踏ん張り、自力で乳を飲む仔馬の姿。これでひと安心です。徹夜で面倒を見てくれた学生会員たちの努力が、仔馬の命を救ってくれました。
今ではすっかり元気になり、放牧地を走り回っています。
樹乃は真昼間に出産
出産を見るための最後のチャンスとばかりに、連日クラブハウスに泊まり込んだり、授業の合間にわざわざクラブを訪れたりと、大学生の会員たちは、実に熱心でした。でもその熱心さを嘲笑うかのように3頭目の出産を控えた樹乃は、なかなか産もうとしません。微かな兆候を見つけると、夜中30分おきに馬房に様子を見にいった日もありました。泊り込んで1週間もすると、みんなの顔にも疲労の色が…。
4月10日、帯広畜産大学の入学式の日でした。前日も泊り込んでいた学生たちは、会員獲得のために新入生に向けてビラを配りにいきました。たまたま休日だった主人も、出かけてしまい、家には私一人。まだ産む様子もなかったので、油断していました。午後3時、用事をすませようと家から出て、馬場に目をやった私が見たものは、横たわった樹乃が産もうとしている姿。慌てて近づくと、すでに前肢が出ています。携帯電話で主人とR子ちゃんに連絡を入れると、R子ちゃんはこちらに向かって来ているとのこと。出産が終わるまでには到着しそうです。ところが主人は戻るまでに30分ほどかかりそう。仔馬の様子からは正常な体位のようなので、到着したR子ちゃんと一緒に、落ち着いて成り行きを見守ることとしました。
若い母馬だけに心配でしたが、今度も何事もなく出産。前回と同じように仔馬をソリで馬房に運び込むと、すぐに立ち上がり乳を飲みはじめました。若いながらも樹乃はきちんと母親の務めを果たしています。誰に教わるわけでもなく、仔馬の体をなめてやる姿は、立派なお母さんでした。
出産は静かに、落ち着いた場所で
今回、初産ばかりの3頭の出産に立ち会って思ったのは、どんなに一生懸命に人が見張っていても、馬は誰もいない落ち着いた状況の中で出産の時を迎えたいと考えているのだという事。ブロンディーは誰もいない夜中、パルディナも馬場に人の姿が見えなくなった夜、そして樹乃は昼間でしたが、誰もいない時でした。何度も出産を経験したセラフィは、人がいても産みましたが、初めての母馬には緊張感があったのでしょう。クラブハウスに泊り込んで一生懸命に見張っていた学生会員たちには気の毒でしたが、馬も静かに落ち着いて産みたかったんですね。
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