2012.8.24 up 



NR出版会連載企画 書店員の仕事 特別編 東北発7
これからも「町の書店」として
栗澤順一さん(さわや書店フェザン店/岩手県盛岡市)


 今年の大きなイベントは、ロンドンオリンピック。この原稿が掲載される頃には、なでしこジャパンや体操の内村選手、水泳の北島選手など、日本期待の選手たちのメダルの色もはっきりしていることでしょう。楽しみですね。

 ところで、「自分のプレーで、皆さんに勇気や感動を与えたい」というスポーツ選手のインタビューをよく耳にしませんか。昨年三月の大震災以降、特に多くなった気がします。自分に出来ることで少しでも力になりたい、という思いからのコメントなのでしょう。よくわかります。あの日以来、私たちもその思いにとらわれ続けてきたのですから。

 弊店のある盛岡は、内陸にあります。そのため同じ岩手県内でも、津波が襲った沿岸部に比べると震災の被害は少なくすみました。しかし、物流が滞ったため、食料品やガソリンが入手できません。営業しているスーパーやスタンドを探しては、並ぶ日が続きました。また、弊店も一週間ほど休店を余儀なくされ、通常営業に戻るには長い時間を要しました。

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 弊店は、北東北の交通の要所、盛岡駅の商業ビル「フェザン」に入店しています。そのため、通勤・通学の社会人や学生、通院の年配の方々から、出張のサラリーマンや帰省の家族連れまで、様々なお客様にご利用いただいております。 恵まれた立地ですが、周辺を見渡すと気が抜けません。歩いて行ける距離と、クルマですぐ行ける距離にそれぞれ弊店の三倍強の大きさの書店。また、同じくクルマで行ける距離に、弊店より大きな書店が入店しているショッピングモールが二つもあります。さらに、地元の書店も元気です。盛岡市は周辺の町村と合併してやっと人口が三〇万人。狭い商圏に店舗が密集している書店の激戦区なのです。

 大きさや在庫数では他店にかないません。無料の大型駐車場も完備していません。立地からお客様の層も絞り込めません。そのなかで、いかに他店との差別化を図り、いかに自分たちの特色を打ち出していくのか。ここ数年、スタッフ一同、試行錯誤しながら店づくりをしてきました。そして出した答えが、「駅なかの書店」でありながら「町の書店」を目指すこと。まずは地域の情報を集めつつ地元の出版物を増やしました。さらに、お客様と積極的にコミュニケーションを取るように心がけながらニーズを聞き取り、店づくりに活かすことに。また、地元の大学や団体と連携し、地域の力になれる書店を目指しました。そうした店づくりの最中に、震災に見舞われたのです。

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 店を再開した直後に大勢のお客様が入ってきた光景は、今でも忘れません。非常事態のさなかでも、本は多くのお客様に必要とされていたことに胸がいっぱいになりました。また、店内ではお客様同士や私たちスタッフとのあいだで、無事を確認しあう姿が見られました。あらためて、自分たちの目指してきた方向は間違っていなかったと感じました。

 ところで、私たちの店舗で沿岸部に唯一、釜石支店があります。町の内陸部にあるため、津波の被害は受けませんでした。その釜石店が再開すると、多くのお客様がご来店されました。すると、商品が足りなくなってしまう問題が発生。物流が滞っているため、補充もままなりません。それならば、と弊店の在庫をクルマに積み込み、スタッフ総出で毎週のように釜石店に通うことに。そこで、被災地の現状を目の当たりにし、また、個人的にも実家が被災してしまい、自分たちはこのまま仕事をしているだけでいいのだろうか、自分たちにできることはないのだろうか、悩む日々が続きました。

 そして、今年年明けに田口店長と相談しながら出した答えが、連続講演会「いまこそ被災地へ想いを!」の開催でした。人と人、人と情報が行き交う駅の書店という立地を生かし、震災関連の書籍を出されている著者の方々を招いての連続講演会。日程は、あの日から一年を経過し震災関連の話題が減る五月から六月にかけて。場所は、フェザン本館にある吹き抜けの小スペース。書店に携わっている自分たちならではの一つの答えでした。

 お招きしたのは、石井光太さん、河原れんさん、高成田享さん、相場英雄さん、戸羽太さん、西條剛央さん。震災以降すぐに被災地に入り、様々な活動をしてきた錚々たる方々です。また、被災地で情報誌やポスターを出されている方々のパネルディスカッションも行ないました。著者の方々をはじめ、出版社の方々、地元の大学、ボランティアの方々、熱心に聴きにきていただいた多くのお客様のご協力のおかげで、計五回の連続講演会は盛況のうちに終えることができました。

 初めて行なった企画からの連続講演会。それぞれのスケジュール調整や、講演会の進行、メディアへのPR等、至らぬ点は多々あり反省点ばかりです。ただ、多くの方々と一緒に震災と向き合い、問題意識を共有できたことは、私たちにとって大きな財産となりました。また、これで終わりではありません。何らかのかたちで自分たちにできることを常に考えていきたいと思います。これからも「町の書店」として。



栗澤さんは、震災本の著者がフェザン店を訪れた際に話を聞き、活字にはできなかったこと、言葉にしづらい被災地の空気など、書ききれなかった著者の思いや、本だけでは伝わらないことがたくさんあるということを知ったそうです。それらを、地域の人たちやお客さんと共有したいと思ったことが、連続講演会を企画したきっかけのひとつだったと教えてくださいました。(事務局・天摩くらら)

(「NR出版会新刊重版情報」2012年9月号掲載)

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