2014.3.23 up 



NR出版会連載企画 書店員の仕事 特別編 震災から三年をむかえて1
「何がお客様に必要か」を考え続ける
高木 徹さん(鹿島ブックセンター/福島県いわき市)


 震災・原発災害の発災から、三年が過ぎようとしています。当店が立地するいわき市では、甚大な被害が出た沿岸部でも瓦礫の撤去が完了し、高台移転や復興住宅の建設工事が進行中です。市街地でも、被害を受けたインフラの復旧がほぼ終了し、まるで震災自体が無かったことではないか、とさえ思われます。しかし、店頭での本の売行きを見ると、発災以前と以後で変化が生じていることに気付かされます。

 とりわけ顕著なのが、当店が独自に集計している週間ベストセラーです。ベスト10の中に一冊、多い時には三、四冊も「原発関連」の書籍が入るという状況が未だに続いているのです。これはいわき市と言うより、原発災害の被害を被った福島県の他地域にも共通のことではないかと思われますが、震災よりも原発災害の記憶が生々しいからに他なりません。

 ひとたび余震が起きれば、「震源は? 規模は? 被害は? どの程度の範囲か?」と矢継ぎ早に考え、情報を確認する習慣が身に付いてしまっています。覚悟を決めて住んではいるのですが、事故を起こした福島第一原発の動向は非常に気がかりなままです。

 そしてもう一つ顕著と言える変化は、本が売れなくなっていることです。活字離れ、節約志向、ネットの影響……、理由はいくらでも思いつきますし、何より全国的な傾向としてもそういう数字が出ています。ですが、どれも説得力がありません。それというのも、当店の周囲には仮設住宅が建ち並び、以前と比較しても多くの方々が居住しています。条件は、むしろ良くなっているはずだからです。

 当店が現在の店舗を構える以前、いわき市では多くの方々が本を求めて、郡山市や水戸市まで足を延ばしていました。いずれも、車で往復二時間以上かかる道のりです。そうした不便を解消し、地域の皆様に地元でゆっくり本を探していただきたい、という思いがお店の原点です。そのためにはジャンル分けを徹底し、棚・平台の品揃えをしっかりとして、整然と分かりやすい売場を作らなければならないと肝に銘じてきました。しかし、その当店のあり方と、お客様の求めていらっしゃるものに「ズレ」が生じてきてしまっているようです。

 それを示すのが、昨今のベストセラー事情です。メディアでのストーリー作りと大規模な広告出稿。これだけで一冊の本が、短期間に驚くほど売れます。当然のことながら、当店にもそれらの本を求めてお客様がいらっしゃいます。市内の他の書店を数軒はしごして、最終的に当店にお越しくださる場合も少なくありません。ですが「その本」だけが目的で、店内を見ていってくださる方はきわめて少数です。わざわざ車で来店しなければならない郊外店ですから、「せっかくだから、お店の中も見て行こう」となぜならないのか? これは、当店が「たくさん本を置いているだけ」の本屋だと思われてしまっていることの裏返しではないかと思われます。

 以前は本でなければ得られなかった情報が、ネットを使えばその場で得られる。多くの人がそう考えている時代です。その中で、どうやって本を手に取っていただき、買っていただくことが出来るのか? 私は「体感・体験を売る」しかないのではと考えます。書籍、雑誌という売り手側の分類を取り払い、本を探しにいらっしゃるお客様の目線に立った売場を作る。その上で、「本を見つける心地よさ」を体験していただくのです。

 ヒントは、出版社の方からのご提案を基に、お客様の需要に合わせて看護書の陳列を変えた時の反応です。在庫点数、商品は以前と同じなのに、「在庫が増えて、品揃えが良くなった」と口コミが広がり、売上も大きく伸びました。

 発災直後、「何がお客様に必要か」を必死で考えたカシブスタッフ。その思いがあれば、もう一度お客様に寄り添えるはずです。福島第一原発から指呼の距離にありながら、大きな被害を免れた故郷いわき市。この地で「本との出会いを演出する仕事」に従事できる幸運に感謝しながら、日々を過ごしていきたいと思います。




お客さんにとって頼りになる書店。鹿島ブックセンタ−を訪れるたび、そう感じていました。今回、高木さんの文章から、あらためて、地域の人たちを支え続けるカシブの底力を感じました。(事務局・天摩)
震災から3年目を迎えるにあたり、カシブさんがいわき市の地域のお客様と本を通してどのように向き合っておられるかをうかがって、今年出版がするべきことは何だろうと考えました。(事務局・小泉)

(「NR出版会新刊重版情報」2014年3月号掲載)

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