第弐拾参話『猛(たけし)』
「あと十五分でそっちに着く。壱号機を八番、六番はレフト音。弐号機はベンチで待機。そう、参号機は監督の指示で。私の権限では彼をスタメンにはできない。」
「五番サード ゴメス」
「山崎はベンチで待機を。」
「いや、スタメンだ。」
「監督」
「かまわん、偵察要員ぐらいなら役に立つ。」
「目標のクリーンアップは参番M井、四番H沢、五番K原。」
「どういうことだ?」
「ミャギは回答不能を提示しています。」
「ただ、あの打順が固定形態でないことは確かだな。」
「様子を見るしかないか。」
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二回表 一死二塁
六番レフト 山崎
第壱打席
「山崎、ホームランはいいから、あてていけ。」
「いいな。いけ、山崎。」
一球目 ストレート ストライク
「山崎!どうしたんだ、弐号機は。」
「だめです。打率が一割を切ってます。」
参球目 ストレート ストライク
空振り三振
「振れない…振れないんだよ。」
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九回裏 中4×3巨
一死二塁 二塁走者M井
「五番ファーストK原」
「−−。(韓国語)」
「…来る。」
「攻撃開始!」
一球目 外角高め ストレート
「−−!(韓国語)」
「やられる?」
レフトポール左 ファール
「参号機の凍結を現時刻をもって解除。直ちに出撃させろ。」
「え?」
「守備固めだ。」
「はい。」
「…また、かえられた。」
「C.D.フィールド展開。絶対におさえて。」
「はい。」
二球目 内角 ストレート
レフトフライ
M井 タッチアップ
「おい、止まれ、サードストップだ。聞こえないのかM井。」
「ふん。」
「…殺る気か?」
「愛甲?
これは、俺の心?愛甲にかえられたくない。
だめ。」
「C.D.フィールド反転!一気に侵食されます。」
「M井をブロックするつもり?」
「中村、ホームベースは捨てて、逃げろ!」
「だめ。俺がいなくなったら、C.D.フィールドが消えてしまう。だから、だめ。」
「中村、死ぬ気か?」
「コアがつぶれます。臨界点突破!」
「ゲームセット。」
「現時刻をもって、作戦の終了を告げます。中村は?」
「壱号機の生存は、確認されていません。」
「救出、急いで。」
「もしいたら、の話だな。」
中010 100 020 4
巨200 000 001 3
勝 山本昌
S 宣
敗 河原
本 中村(8回1点河原)
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「ついに第26試合目に勝利した。」
「これで死海文書に記述されている試合は、あとひとつ。」
「約束の時は近い。」
「その道程は長く、犠牲も大きかったがな。」
「左様。システムの濫用に続き、壱号機の損失。」
「星野、解任には十分すぎる理由だな。」
「小松を無事に返した、意味の解らぬ男でもあるまい。」
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「−−!−−。(韓国語)」
「中村さんが、無事で、よかった、です。」
「−−。(韓国語)」
「監督さんは、きて、ない、ですね。」
「−−。(韓国語)」
「助けて、くれて、ありがとう、ございます。」
「何が?」
「−−。(韓国語)」
「−−?(韓国語)」
「セーブの、連続の、ため、助けて、くれた、です、中村さんが。」
「そう、宣を助けたのか。」
「覚えて、ないですか。」
「いや、知らないんだ。
多分、俺は三人目だと思うから。」
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「はい、もしもし。」
「あなたたちのガードを解いた。今なら外に出られるよ。」
「矢野さん? 」
「無駄だ、このパスがないとな。」
「そう、前球団社長の仕業か。」
「ここの秘密、この目で見せてもらおう。」
「いいでしょう。ただし、彼らも一緒です。」
「…わかった。」
「−−?(韓国語)」
「ここが?」
「そう、地下鉄車両用車庫。ドームの地下は、こうして利用されています。」
「矢野、私はこれを見に来たわけじゃない。」
「わかってますよ、高畠さん。」
「これが、中村の元だというのか?」
「−−?(韓国語)」
「中村、タケシ?」
「そう、壱号機のコアとなる部分。それの生産工場です。」
「これが?」
「ここにあるのはダミー、そして壱号機のためのただのパーツに過ぎない。
人は四番打者を拾ったので喜んで手に入れようとした。それが3年前。せっかく拾った 四番打者も消えてしまった。でも、今度はそれを自分たちで復活させようとしたんです。 それが壱号機。そして壱号機から四番に似た人を造った。それがタケシリーズ。」
「−−?(韓国語)」
「人、人間、です、か?」
「そう、人間だよ。本来、魂のないタケシには、人の魂が宿らせてある。
みんなサルベージされたものだよ。
魂の入った容れ物は中村、一人だけだ。
彼にしか魂は生まれなかった。
ガフの部屋は空っぽになっていたんだ。
ここに並ぶ中村と同じものには、魂がない。ただの容れ物だ。
だから破壊する。憎いから。」
「おい、何やってるのか、わかってるのか!」
「ええ、わかってますよ。破壊です。人じゃない。人の形をしたものなんだ。
でも、そんなものにすら、俺は負けた!勝てなかった!
スタメンのことを考えただけで、どんな、どんなメニューにだって耐えられた。
自分の体なんて、どうでもよかったんだ。
でも、でも、監督は、監督は…わかっていたのに。」
バカなんだよ、俺は。」
「野球にとりつかれた人の悲劇…。俺達も同じか。」
−つづく−
予告
ナゴヤ球場が消え、ファンが去り、傷心のタケシたちにディミューロが微笑む。彼のさわやかな、風のようなジャッジにとけこむタケシ。だが、彼らには苛酷な運命が仕組まれていた。
見てください!