第弐拾四話『最後のチ葉』

「俺は選ばれたんだ。」

 ホームラン王だ。日本一だ。

 M井よりも、大豊よりも打ったんだ。

 チームは2位でも俺は一番なんだ。

 だから、見て。俺を見にきてくれ、みんな!」

 

「つづいては、プロ野球ニュース。もう宮川さんはニコニコしてますが、あの人の登場です。福井さんお願いします。」

「はい。今晩のプロ野球ニュースは、今期惜しくもタイトルを逃しましたM井選手におこしいただきました。」

 

 

「ホームラン0。本塁打王たる、資格なし。

もう、俺がいる理由も、ない。

誰も俺を呼んでくれない。

ファンも、監督も、だれも。

俺が生きていく、理由もない。」

「山崎タケシ、だな。」

 

 

「星野監督。」

 

「セーブデータが消えたんです、パワプロ4。おばあちゃんのところにあずけていた。

ずっとやってなかったのに、突然、もうできなくなる。」

「…何故、ダミーシステムを破壊した?」

「ダミーではありません。破壊したのは、中村、です。」

「今一度問う。何故だ。」

「スタメンで出されても嬉しくなくなったから。

 私をロッテに飛ばしたらどうです…他の人みたいに!」

「君には失望した。」

「失望?最初から期待も、望みも持たなかったくせに!私には何も!何も!何も!」

 

「…どうしたら、どうしたらいいんだ。」

 

 

「諜報2課から、村田さんはやはり辞めるそうです。」

「で、今日、代わりの外国人審判到着。出来過ぎてるな、シナリオが。」

 

 

「中村を、セ・リーグを、ドラゴンズを…何をしてるんだ?…監督。」

 

「歌はいいね。」

「え?」

「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。

そう感じないか?愛甲君。」

「僕の名を?」

「知らない者はいないさ。失礼だが、君は自分の立場を少しは知ったほうがいいと思うよ。」

「そう、かな?…あの、君は?」

「僕はディミューロ。マイケル・ディミューロ。」

「交換審判員?君が?あの…ディミューロ、くん?」

「ディミューロでいいよ、愛甲君。」

「僕も、あの、タ、タ、タケシでいいよ。」

 

 

「ディミューロが今、到着したそうです。」

「そう。マイケル・ディミューロ。過去の経歴は抹消済み。中村と同じくな。」

「ただ、生年月日はペナントレース開幕と同一日です。」

「メジャーリーグが直で送ってきた審判だ。必ず何かある。」

 

 

「あと、3q上げてみろ。」

「はい。」

「このデータに間違いは無いな。」

「全ての計測システムは正常に作動しています。」

「ミャギによるデータ誤差、認められません。」

「よもや、ストライクゾーンの変換なしに判定を下すとはな。」

「しかし信じられません。…いえ、ルール上ありえないです。」

「でも、事実なんだ。」

 

 

「ドラゴンズ、そもそも我ら理事会の実行機関として結成されし球団。」

「我らのシナリオを実践するために用意されたもの。」

「だが、今は一個人の占有期間と成り果てている。」

「作用。我らの手に取りもどさねばならん。」

「約束の日の前に。」

「ドラゴンズとタケシリーズを本来の姿にしておかねばならん。」

「星野。理事会への背任、責任は取ってもらうぞ。」

 

 

「さあ、いくよ。おいで、タケシの分身、そして仙一のしもべ。」

 

 

「山崎、打撃練習開始。」

「そんなバカな…」

「屋内練習場にC.Dフィールドの発生を確認!」

「山崎!」

「いえ、パターン橙!間違いありません!G球団です!!」

「なんだと!」

 

「G球団?あの審判が?」

「目標は西区を通過中。」

「だめです!自動改札の電源は切れません。」

「目標は名古屋駅を通過。」

「JRの全線を緊急閉鎖!少しでもいい、時間をかせげ。」

 

「装甲隔壁は弐号機により、突破されています。」

「目標、大幸横丁を通過。」

「参号機に迎撃させる。いかなる方法をもってしても、目標のホームベースへの侵入は阻止しろ。」

 

「しかしG球団は何故、ディミューロを?」

「もしや、審判団との融合を果たすつもりなのか?」

「または、破滅を導くためかだ。」

 

「うそだ!うそだ!うそだ!ディミューロが、彼がG球団だったなんて、そんなのうそだ!」

「いや、事実だ。」

 

「遅いな、タケシ君。」

 

 

「タケシ参号機、一塁側ブルペンを通過、目標追撃中。」

「参号機、ネクストバッターズサークルに到達。目標と接触します!」

 

「いた。」

「待っていたよ、タケシ君。」

「ディミューロ君!」

 

「山崎、ごめんよ!」

 

「タケシリーズ。愛甲より生まれし、日本プロ野球界にとって忌むべき存在。それを利用してまで勝とうとする仙一。僕にはわからないよ。」

「ディミューロ君、やめてよ。どうしてだよ!」

「山崎は僕と同じ体でできている。僕もメジャーより生まれしものだからね。国籍さえなければ同化できるさ。この弐号機の大和魂は今、自ら閉じこもっているから。」

「…C.D.フィールド?」

「そう、君たちドラゴンズナインはそう呼んでいるね。

何人にも犯されざる、聖なる領域。名古屋の光。

タケシ君もわかっているんだろう。

C.D.フィールドは、誰もが持っている名古屋弁の壁だということを。」

「そんなのわかんないよ、ディミューロ君!」

 

 

「タケシ両機、ホームベースに到達。」

「目標、ダイヤモンド中心まであと20!」

 

「参号機の信号が消えて、もう一度変化があったときは」

「わかってます。そのときは、ここを自爆させるんですね。

「サードインパクトが引き起こされて、濃尾平野が消滅するよりはマシだからな。」

「…!目標ロスト!」

「そんなバカな…、この至近距離ではありえないぞ!」

「いえ、参号機、弐号機ともに反応が消えてます。」

「まずい!最後の結界をはったのか。」

「だめです!打者との連絡もとれません!」

 

「最終安全装置解除!」

「天井パネルが、開いていきます。」

「ついにたどりついたのか、G球団が。」

 

 

「メジャーリーグ、我々の母たる存在。

アメリカに生まれしものは、母国に還らなければならないのか?ルールを破ってまで。」

 

「違う。これはバレンタイン監督…そうか、そういうことか仙一。」

「ディミューロ君!」

 

「ありがとう、タケシ君。

弐号機は、君に止めておいてもらいたかったんだ。

そうしなければ彼は打ち続けていたかもしれないからね。」

「ディミューロ君、どうして。」

「僕がジャッジし続けることが、僕の運命だからだよ。結果、試合が混乱してもね。

 だが、このまま国に還えることもできる。セーフとアウトは等価値なんだ。その判定、それが唯一僕の絶対的自由なんだよ。」

「何を、ディミューロ君?君が何を云ってるのかわかんないよ、ディミューロ君!」

「遺言だよ。

 さあ、僕を消してくれ。そうしなければ君らが負けることになる。

 滅びの時を免れ、優勝を与えられる球団は一つしか、選ばれないんだ。

 そして、君は消えるべき存在ではない。

 君達には、未来が必要だ。」

 

 

 

 

 

「ありがとう。君に会えて、うれしかったよ。」

 

 

「映像、回復。」

「C.D.フィールド消滅、反応なし。」

「タケシ参号機発見。」

「目標の帰国を確認しました。」

 

 

「僕に似てたんだ、中村にも。

 生き残るならディミューロ君の方だったんだ。僕なんかよりずっと彼の方が、話題性に富んでいたのに。」

 

「ディミューロ君が生き残るべきだったんだ。」

「違うな。勝ち残るのは、勝つ意志を持った球団だけだ。

 彼は帰国を望んだ。判定する意志を破棄して、見せかけの希望にすがったんだ。

 タケシは悪くないよ。」

「冷たいね、高畠さん。」

 

−つづく−

 

 

次回予告

最後のG球団は消えた。だが、タケシは苦悩する。そして、鳥越、山崎も心を吐露する。ファンに救いを求めながら、これも、終局のひとつの形であることを認めながら。次回『尾張名古屋』