先日機会があって、海軍飛行予備学生出身、昭和20年春から鹿児島基地を中心としてゼロ戦で戦っておられた方の講演を聞く機会があり、その解説で、空戦での至技「左ひねり込み」やっと分かりかけてきました。

 

ふつうの曲技は、おおむね機体に空力的な力を発生させ、それで機体の姿勢を変えるのが基本ですが、「ひねり込み」は力学的な「ジャイロモーメント」で機体をクルリと回します。

 

すなわち宙返りにおいて(フルパワー、エレベータをひきつける)、その上部あたりで次を同時に操作するとのことです:

 

1)エルロンを「シュパッと」右に大きく操作する。この操作では、左翼のエルロンが最大舵角まで下がりますが、そうするとその部分の抵抗が大きくなり、一瞬左に機首が振れます。これは「補助翼抵抗」といい、通常の旋回では、これを打ち消すために操縦かんを倒した側のラダーを踏み込みます(手足の一致)。

 

2)どうじに左ラダーを大きく踏み込む。普通のラダーだけの操作よりも、はるかに機首を振ろうとする力(ヨー・フォース)が大きくなるでしょう。

 

3)そうすると、右回りのプロペラのジャイロ効果で無理やりに機首が上げられ(操縦者から見て)、ノーマルの宙返りよりも小さなサークルを描いて「シュパッと」回り込む。

 

ジャイロ効果とは、たとえば自分からみて右回りの高速回転物体(地球ゴマ)の軸を持って左に振ろうとすると、軸は回転方向に90度ずれた方向、すなわち上向きに振れます。

 

(ヘリコプターはそのローターの回転面を前方に傾けると、ローターの発生する揚力のベクトルの水平成分で前進しますが、ローターを「傾ける」操作には、この原理が考慮されています)

 

 

4)これは、通常の宙返りでの:

a) 操縦かんをひきつける

b) そうするとエレベータが上げ舵となり

c) 迎え角が増大し、機体の軌跡が上向きとなり、宙返りに入る

 

のとは全く異なる力学的作用で機首が強引にすばやく回されることを意味します。

 

空気力での宙返りでは、主翼の揚力を34倍に増大させますが(3-4Gがかかるという意味)、プロペラのジャイロモーメントが機体を回すのであれば、機体構造に過大な空力的加重は加わらないでしょう。慣れなければ目が回ると思いますけど。

 

これであれば、コルセアでも、ヘルキャットでも「左ひねり込み」をなんとか行うことができるはずです。グリフォンスピットであれば「右ひねり込み」となるはずです。特にスピットの場合には、質量の大きな5枚プロペラのトルクが強烈だったとありますので、この操作は容易だったと思われます。

 

ひねり込みは当時の海軍の戦闘機の訓練では「正課」として教えられていたそうですが、「それを実戦で使ったことはただの一度もなかった」

 

また、ひねり込みのことを「サッと回る」という表現で言われましたが、その場の聴講者の方々には分かりにくかったと思います。いかにも飛んでおられた方の表現方法という感じでした。

 

いつも集団で突っ込まれ、ひねりこみのような「敵味方一対の操縦者がお互いに秘技を尽くしてたたかう」というような場面はなかったとおっしゃられました。

 

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