耐空性承認書 No.:22658 P 注:←いきなりPDF書類となります

申請者:英国国防省

航空機の型式:メッサーシュミット式BF 109G-2

航空機の登録記号:G-USTV

航空機の製造番号:10639

 

飛行許可書の承認について

 

1.諸言

本機はドイツのバイエリッシェ・フルークツォイクベルケ社のライセンスにより、ライプチヒ市のエルラ・マシネンベルク社が製造し194210月初旬に完成した。その後ドイツ空軍の受領を経てリビヤに空輸されたが、数週間後戦闘中に損傷を受けた。当地のオーストラリア空軍が11月上旬に本機を捕獲した際の損傷部位は次の通り;水平尾翼、プロペラ及び尾輪。

損傷のうち水平尾翼及び尾輪については遺棄されていた他機のものと交換し、プロペラの損傷部位はプラグ修理がなされた(注:これは後に良品に交換された)。

 

本機はまず短期間オーストラリア空軍第3スコードロンで飛行に用いられたが、その後同部隊は技術評価のため本機の供出を命じられた。カイロを経てパレスチナにおいて性能評価に供せられた。19432月に(スエズ運河にある:訳注)大ビター湖近辺の基地に移され、そこでは本機とピットファイアVbとの模擬空戦が行われている。

空戦試験終了後、本機10639は英国に運搬され同年12月に舶着、リンカーンシャーのコリーウェストン基地に陸送されNo.1426 敵国製航空機飛行班所属となった。整備及び再塗装を経て英国軍用機登録記号RN228を与えられた本機は、翌1944年中連合国の各戦闘機との比較試験に用いられた。

 

さらに同年後半には新規爆撃機搭乗員の敵性機慣熟訓練に用いられている。翌年、同飛行班廃止に伴いタングメア基地の中央戦闘機学校に短期間置かれた後、シーランドのデポにおいて保管された。

 

戦後の経歴

1960年まで保管されていた間、バトル・オブ・ブリテン戦勝記念ホース・ガード・パレードにおいて展示されるなど幾度か公開展示され、保管場所もフルベックに変更されている。1960年に保管が解除されるとサフォークのウォティシャムに移動され飛行状態への復元が試みられたが、このときは完遂に至っていない。1962年から72年まで頻繁に展示に供されている。

1972年、本機はリネアムに移動し、W.R. スナッデン氏により本格的な飛行状態への復元作業が開始された。さらに1975年にはノーソルトに、1983年にはベンソンに移動して作業が継続された。総ての作業はボランティアの余暇時間によるものであり、1991年にこのプロジェクトは完了した。

 

2. 本機の解説と評価

2.1 機体構造は実質的にオリジナルであるが、以下の修理項目を含んでいる。

 

i)                    バッテリーラックの下方の胴体外板の腐食修理

ii)                   左翼主脚収納部に面した主翼桁の下部桁材に認められた腐食の除去及びブレンド作業(スムースにペーパなどで均すこと:訳注)。欠損した部分はBAe社ハットフィールド工場において同等材料により新規製作された。

iii)                  エアロスペース社で新規に製作した防弾ガラスをキャノピー前面に取り付けた。

iv)                圧縮空気注入口を地上での接地点としても利用するよう改めた。

v)                 座席ベルトは、アービング社によりオリジナルのパターン並びにオーバーホールした金具を用い再生。

 

2.2 エンジン及び補機

本機のエンジン、ダイムラー・ベンツ社製DB605A、製造番号77653は新品として1942年に搭載されている。ロールスロイス社ブリストル工場に搬入されたエンジンは総て分解され、各コンポーネントの検査及びクラックの有無が確認された。燃料噴射ポンプはスウェーデン空軍から入手したもので、これもオーバーホール後に試験・調整が行われている。

過給器のオイルポンプ並びにブースト制御ユニットは検査の結果良好であった。総てのホース類は新品に交換、圧力テストが行われた。エンジン本体はマニュアルに従ってリビルド作業が行われた。オイル冷却器及び油圧作動液タンクはそれぞれ修理・圧力検査が行われた。

 

左右エンジン架はクラックの検査を実施。

電気配線類は新規製作され、点火用マグネトーはオーバーホールが行われた。

なお、上記作業の詳細記録はフィルトンに保管されている。

冷却液ラジエーターは両方ともフィンランド空軍博物館から入手し、冷却専門のサースク社を通じてドイツ、シュツットガルト市の製造者によりオーバーホールが実施された。

 

2.3 プロペラ

オリジナルのVTM金属製プロペラは、ドイツ・ローゼンハイム市のホフマン・プロペラ社により完全なオーバーホールが行われた。本プロペラには1985126日付け型式証明及び予備品証明書が発行され、本証明書類中にブレードがエンジン並びに機体と適合するステートメントが記載されている。

(これはドイツ航空局(LBA)の当時の証明書でしょう:訳注)

 

2.4 油圧系統

油圧系統はオーバーホールされ、シール類は良品と交換され、オリジナル状態に整備されている。

 

2.5 電気系統

本機の電気配線は総て交換されている。さらに各電気作動コンポーネントは試験され必要に応じてオーバーホールが実施されている。ヘストンのエアロクオリティ社から供給された Gill G240 24ボルト22アンペアのバッテリーが搭載されている。

 

2.6 主脚

主脚柱及び引き込み機構はそれぞれオーバーホールされている。主脚及び尾輪ホイールはスイス空軍のBf109E装備品からのものである。タイヤはグッドイヤー社から供給されている。

 

2.7 ピトー系統

ピトー管はオリジナルのものである。

 

2.8 アビオニクス

電子装備品は下記が取り付けられている;

ベッカー社AR3201 VHF無線機(ドイツ・ベッカー社のもので民間用、非常に小型で小電力:訳注)

無線アンテナ部品番号214B/P4はチェルトン・エレクトロスタティック社製であり、装備位置は右翼翼根後方の胴体下部。

 

2.9 酸素系統

酸素機器はドイツ・リューベック市のドレーゲルベルク社から供給されたもので、新規部品によるものではあるものの、大戦当時の機器構成に従っている。これは製造者の推奨事項に従って機体へ取り付けられている。

 

2.10 計器類

計器はそれぞれ英空軍博物館、フィンランド空軍博物館ほかから入手したものである。総てオーバーホールされ、必要に応じて較正が実施されている。

 

 

3. 図書類、プラカード及び限界事項

3.1本航空機は下記図書類並びに本飛行許可書に示す運用限界に従って運用しなければならない。

 

-チェックリスト ”Initial Checks' Ref 109 MRg-101”

パイロット・ノート ” Pilots Notes Ref.109 MRg 102 for G-USTV”

以上2件は空軍准将ジョン・アリソン作成

 

-操縦席内プラカード

操縦席において機長が見える位置に飛行速度限界並びに構造限界(次項に*で示す)を明示したプラカード(掲示板)を設置すること。プラカードには次の文言を入れること:

「本機は国際的に認められた耐空性基準に適合していない」

 

3.2 本機においては次の限界事項が適用される

3.2.1 速度限界

*Vne (急降下制限速度)580km/h IASIAS:計器指示速度)

 Vc  (巡航速度)360 km/h IAS,

*Va  (運動速度、舵角をいっぱいに取れる上限速度)360 km/h IAS,

*Vfe (フラップ下げ制限速度)250 km/h IAS,

*Vle (主脚下げ状態制限速度)350 km/h IAS,

Vlo (主脚上げ下げ操作制限速度)250 km/h IAS.

 

3.2.2* 計器指示速度(IAS460km/h以上ではトリム操作を行わないこと。

 

3.2.3* 対地高度500フィート未満で急激な機首下げに入れるのは禁止

 

3.2.4* 尾輪は離陸・着陸時にはロックすること

 

3.2.5*実証された横風成分

 

右からの風:10ノット(5メーター)左から:5ノット(2.5メーター)、着陸時には10ノット(草地)、5ノット(舗装路面)

 

3.2.6 重心限界

基準面位置:主ジャッキポイントから機軸に沿って3.348m前方

重心位置:基準面後方2.77-3.02m

(この間に重心が来るよう燃料やらパイロット、弾薬、オイルその他諸々を搭載する:訳注)

 

3.2.7* 荷重倍数限界(G

+4から-1、持続してマイナスGのかかる状態は避けること。

3.2.8* 故意のキリモミは禁止

3.2.9 承認された最大重量は2566キログラムであり、これに燃料最大88英ガロン、操縦者及びパラシュートが加わる。

 

3.2.10* 発動機限界

最大出力:2600rpm、給気圧1.3 ATA30分間許容

最大連続出力 2300rpm、給気圧1.15 ATA

 

本航空機の整備には次の図書を用いること

D Luft.T 2109 ハンドブック 0 – 11 (英訳版)

スペアパーツカタログ (Ersatzteilliste).

L.Dv.T.2109 G-2型航空機整備マニュアル(英訳版)

ベッカー社無線機マニュアル

ドレーゲルベルク社酸素システムマニュアル

D. Luft T 3605 A-B エンジンマニュアル

L.Dv.514 プロペラマニュアル

 

4. 試験飛行とその結果

本航空機は次の3名により試験飛行が実施され、合格した。推奨される限界次項は3.1項に示してある。

空軍大佐 R.ハーラム、空軍准将 ジョン・アリスン 英国民間航空局(CAAD.R.サウスウッド

 

5. 騒音限界

飛行許可書により飛行する旧軍用機である本航空機には適用されない。

 

6. 重量重心位置

重量重心計測作業の結果により、本機固有の重心位置表が作成された。重量は2565.8kgであり主脚下げ状態での重心位置は基準面後方2.78mである。なお基準面位置は主ジャッキポイントの3.348m前方である。

 

7. 整備

本機は本飛行許可書並びに各製造者の推奨する方式に従って整備すること。なお申請者は、すでに本航空機の整備に必要な詳細情報が揃えられていることを本耐空性承認書中に示している。

 

8. 検査

本航空機は英国民間航空局による検査により、この耐空性承認書に適合し、飛行許可付与に適合するものと判定された。

 

9. 飛行の許可

本航空機は本耐空性承認書及び飛行許可に記載された各事項に従って整備・運用することを条件として飛行許可を与える。

W.A. べヴァン

民間航空局

199263

...............................

For the Civil Aviation Authority

Date 3 June 1992

 

 

 

訳者の感想

このメッサーは事後残念なことに原っぱに脚を出して不時着して転倒したやつで、その後はロンドンの英空軍博物館に展示されているようです。

 

この機体、捕獲当初から機体付属書類やら航空日誌やら整備記録など、経歴を示す資料があったのでしょう。それが重要な「飛ばせる」根拠となり、お役所から認められたのだと思います。

 

総じて航空機を飛ばす場合はその経歴が非常に重要で、パイロットの飛行前の義務確認事項には経歴の確認が含まれます。すなわち事故歴の有無やどう修理され、はたまた改造を受けているか、すべて頭に入れておかなくてはなりません。

 

さらに、重要な部品すなわちラジエーターや車輪など、各国空軍から調達しているのもさすが英空軍ならではで、これらも経歴すなわち製造年月日、使用・修理や保管経歴が明確だったのでしょう。

 

スピットファーの復元の場合も機体、材料、部品すべて来歴および出自の証明が非常に重要であるということです。目の前にモノとして部品があっても、その素性がよく分からない場合は他人様の頭上を飛ぶ用途には使えません。

 

こうして考えると、ドイツでMF-BBというMe109Gを復元していますが、あちらはスペイン製の機体構造を利用しているわけであり、その分検証や適合性の証明に非常に手間がかかったことと思われます。

 

昨今行われている「レストアして飛ばす」というのは、勝手に外見だけ復旧するのとは大違いで、最初に航空機が飛行できた根拠(証明書)から出発し、構造も変えないし部品もできるだけオリジナルのものを使う(すなわち航空機に使用できることがある時点で証明されている)ということです。

 

要するに飛行機の経歴を書類上も実物上も連綿と追いかけ、空白がある場合は合理的に補完し、いわゆる「耐空性」というものを立証する作業となります。

 

いっぽう我国では、航空というものが戦後一時完全に消滅してしまい、再スタートに際して法的な制度もハードウェアの基準も全く新規に塗り替えてしまったわけです。なので「連綿さ」を見出すのは非常に困難であるとすぐ理解できちゃいますが、とても残念なところです。

 

こうして「許可書」を読んでいると、さすが英国のお役所は物分りが良いなぁと嘆息します。あと、塗装をどうするか?という部分には余地がありますな。でも昔の計器で夜光塗料にラジウムを使っているのは使用できないと聞いたことがあります。

 

 

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