フェアリー・ソードフィッシュとロイヤル・ネービー・ヒストリック・フライト  200626日記

 

20006月中旬、英国艦隊航空隊(FAA)のヨービルトン基地を訪れ、大戦機ソードフィッシュをつぶさに眺めるチャンスを得ました。ヨービルトンは英国でも風光明媚な南西部、サマーセット州の内陸にありますが、その付近には軍港で名高いポーツマスがあります。日本でいえば横須賀と厚木飛行場の位置関係でしょうか。

 

現地には前日の午後入りました。非常によく晴れた午後、B&Bの部屋で一服していると、少しくぐもって、それでいて軽やかなピストンエンジンの、それも単発機のものとおぼしき音が・・・・・。さっそく窓から上空を眺めると、まごうことなきソードフィッシュが基地の方角に向けて飛行しています。光り一杯の夏の午後、絵みたいな光景でした。ここは歴史の国イギリスなんだなあ、と感心させられます。

 

1)艦隊航空隊博物館(FAA Museum)

同基地の入り口にある博物館で、WW1から現在までの航空機が展示されています。数あるWW2大戦機で珍しいのは、フェアリー・アルバコア雷撃機で、きれいに展示レストアされていましたが、その大きさにびっくり。隣に並べてあるアベンジャーと同じくらいに見えました。アベンジャーは、米国などでごらんになられた方も多いかと思いますが、例の通りの巨体です。アルバコアは、胴体はさすがに細いのですが、背が高いのと、複葉の折畳みがなんとも大仕掛けに感じました。また屋外に飾ってあるバッカニーア攻撃機の足(主脚柱)の太いのには驚きました。

 

館内の展示が、まるで空母の中を歩いて廻っている(正規空母はとっくに退役させたはずなのに)ようにしてあるのにも感心。英海軍はふたたび正規空母を保有するつもりがあるのではとそのときにカンぐりましたが、果たして新しい空母CVFの計画が発表されたのはそのすぐあとです。手狭なようで当時拡張工事中でしたが、ともかく一見の価値のある博物館です。

 

2Royal Navy Historic Flight

翌日午前中にアポを取っておいたので、エスコートされて基地構内の滑走路の反対側の「Royal Navy Historic Flight」の格納庫を訪れました。マネージャーの退役海軍少佐であるブライアン氏に案内されてエプロンに降り立つと、そこにはまごうことなきソードフィッシュ、それも戦前の塗装を施したシリアル番号W5856号機がたたずんでいるではありませんか。あまり大きく感じない、ほどよい大きさの優雅なスタイルです。そのすぐまえにエンジン試運転を行ったばかりとのことでした。

 

この機体は、ブラックバーン社製のソードフィッシュMkII1943年製だそうです。機体の表面は銀ドープあるいはその上から銀ペイント塗装ですが、グレーの気がかかった、落ち着いた色気で、模型などで銀をそのまま塗ると派手すぎることになるでしょう。胴体後部に所属空母アークロイヤルを示す鮮やかな赤青赤のストライプ。そこに記してある「A2A」の記号は、Aがアークロイヤル、2が同艦の第2飛行隊(810中隊)、最後のAが指揮官機をあらわすと、Wood氏は丁寧に説明してくれます。

 

格納庫内のど真ん中には、翼のないもう一機のほうのソードフィッシュLS326号機が座っています。こちらは写真集などで有名な機体ですが、主翼の桁に腐食の穴が見つかったため目下修理中とのことでした。翼はありませんでしたが、胴体各部のパネルが外されていて構造がよくわかりました。鋼管構造であることは知られていますが、一次部材の鋼管接合は溶接ではなく、ブロック材を介したリベット止めで、まるでWW1の技術と同じです。後部胴体側面から出ている操縦系統の索は太さ4.5mmくらいのケーブルであり、タミヤの1/48キットでしたら0.1mmの太さとなります(釣り糸でこの太さのものはあるでしょう)。

 

写真ページ

 

羽布パネルは赤色緊張ドープ塗装の上に、銀ドープ、仕上げ塗装の順となっていると説明を受けましたが、羽布の内側から見た赤色ドープは(すなわち胴体内面)通常鉄工所などで使用している赤さびペイントにいくらか真紅を混合したものを白リネンの内側から塗った、という感じになっています。なお、現在同機の羽布には麻(リネン)の羽布を使用しています。モダンな化学繊維の羽布システムは良くないので、リネンがあるかぎり使い続けると言っていました。実際、化学繊維の羽布は今やポピュラーですが、手直しなどの際の作業性には問題があるといえます。それに、化学繊維の羽布は麻あるいは木綿とは見た目でも微妙な差があります。

赤字:2007/02/19訂正。リネンを木綿と間違える初歩的ミステーク。

 

さてLS326機のコックピットですが、よく見る英国大戦機の機体内部色ではなく、つや消し黒に塗装してありました。操縦席とオブザーバー席の仕切りに左右2個の直径10cmくらいの円盤がついています。Wood氏はにやりと笑って、「ここの部分を操縦席から押して開くと、メッセージを書いた用紙を授受する小窓になっているのです」と開いて見せてくれました。あと、オブザーバー席は床に折り畳むこともでき、また、床の円形のハッチは、開くと魚雷の深度調定ができるようになっているとのことでした。後方機銃は、シンプルかつ容易に扱えるマウントに取り付けられています。後部座席にはいずれも座席ベルトがありませんが、よく見ると床にモンキーベルトを引っ掛けるワイヤーが取り付けてあります。

 

信号弾ピストルのカートリッジは輝く銀色で、マウントに目一杯の数が差し込んでありました。

模型にはある魚雷照準器ですが、左右の棒上にあるボッチ一つが5ノット分となっていて、操縦士は目標の艦首波から的速を判定しリードを取るのだそうです。

 

あと、ブリストル・ペガサスエンジンもよく油がのっていて光っており、良好に整備されていることを物語っています。このエンジンのくせというか、駐機していると下側になるシリンダーにオイルがたまって、エンジン試運転でマグネト・ドロップ(2個あるイグニッション系統を、片側にしたときの回転数の落ち)が規定をオーバーするので、駐機中は通常下側のシリンダーの点火プラグ数本を外してあるそうです。「それでは戦時中空母ではどうしていたのですか?いちいちそんなに手間をかけるのでしょうか?」と質問すると、エンジニア・オフィサーであるWood氏は、「結構エンジン不調のまま、実際に行動していたらしい」とのことでした。

排気管を兼ねるタウネンド・リングは、模型の塗色指示のような「コッパー」色ではなく、半つや消しのさび色といったところです。

 

格納庫には、このほかにホーカー・シーフュリー戦闘機が整備作業中で、この機体は何度か見たことはありますが、その巨大なブリストル・セントーラスエンジンは圧巻です。この、レシプロエンジンの極致ともいえるものは同機のカウリングにぎりぎりに収められていて、よけいにその大きさが強調されていました。

 

写真ページ

 

3)コックピット慣熟

さて、エプロンの方のソードフィッシュのエンジンもすっかり冷えたようです。「コックピットに座ってみましょう」と言ってくれたのでさっそく・・・。

 

胴体には左側面にステップがありますが、いわゆる「キックステップ」で、アルミ合金のユニットです。「右足をまずここに、左足はここ・・」と、羽布の胴体を破らないように慎重に登ってゆきます。操縦席周囲は比較的強くできていますので、ヘリとヘッドレストをつかんでまず座席に立ち、そして座りました。操縦席からの視界は思ったよりも広く、すこし頭を左右に振れば、空母(あるいはMACシップの)の小さな甲板も何とか見えそうです。また3点姿勢の角度も大きくなく「少し慣れれば僕にも飛ばせそうです」とWood氏に言ったら、ニヤリとほほえんでいました。

 

操縦系統を動かしてみましたが、3舵ともフリクションなく軽く操作できます。上翼中央の円いノブは何だろうと思っていましたが、これを回すと(軽く廻る)両翼のエルロンが下がり、フラップになります。水上機形態でのカタパルト射出の際に使うとのことでした。

 

写真ページ

 

4)まとめ

遠い日本からわざわざ行ったのですが、ジェネラルマネージャーであるブライアン氏自身に午前中に2時間近く懇切に案内していただき、生きているソードフィッシュに出あえてまことに感謝感激です。「Royal Navy Historic Flight」は、ボランティア団体で、スタッフ(全10名)はすべてリタイアした海軍軍人からなり、資金はブリティッシュ・エアロスペース社などから援助を受けているとのことでした。パイロットは現役の海軍パイロットの選ばれたメンバーが無償で担当するそうです。帰り間際にそのパイロットのひとりと少し話をしましたが、「自分はまだソードフィッシュの経験は少ないが、ともかく優雅に飛ぶ良い飛行機だ」と言っていました。

 

ヨービルトン(Yeovilton)基地では、シーハリアーや迷彩のシーキングがタッチアンドゴーあるいはホバリングの訓練をしていました。かなり活動的な基地です。

 

最後にブライアン氏が「われわれの活動は、単に飛行機を保存して飛ばすことではない。英国の歴史を保存し、皆さんにお見せするのが務めである。ブリティッシュ・ヘリテッジ財団という英国各地にある歴史的遺構を保全し、歴史教育や観光に役立てるための公益団体の補助も受けている」と言っていましたが、このことは非常に印象的でした。

 

The Swordfish Heritage Trust/ Royal Navy Historic Flight

 

HP: www.yeovilton.org.uk/

 

e-mail:rnht@globalnet.co.uk もしくは sht@globalnet.co.uk

 

場所は、ロンドンから西に200kmほど、車で3.5時間ぐらいです。

 

back