02. 態度について


 今、自分はやむを得ない状況で自閉をしているけれど、  本当は外へ向かいたい、という態度を本当は捏造していることに過ぎない。


 こんなことの一つ一つが未来を殺していくんだって、  いつか日記に書ける日が来ることも信じてはいない。


 本当のオレンジとかもめは、もう腐ってしまう。


 (こんなことの一つ一つ、君に告げる)










   04. わたしについて


 日曜日はとても天気がよくて、きみと一緒に散歩に出かける。

 近くの河原を歩いて、いつもの小さなケーキ屋さんでお茶を飲ん
で、また河原を歩いた。お休みだから子供なんかがたくさんいて、
凧あげをしてる男の子もいた。大人やおじいちゃんおばあちゃんは
不安定に浮かぶそれや、持ち主の男の子を見ていた。わたし達も
歩きながら見ていた。その子はそうされてることに少しだけいたたま
れなさそうだった。それでも凧の手元をきゅっと離さず握っていた。

 ガードレールの下にはナデシコが咲いていて、わたしはそれを摘
んで部屋に飾ろうよってきみに言った。きみはつまらなそうに「うん」
って頷いたけど、ほんとうはそういうことをすごくよろこんでることを
知っているよ。長い指と爪で、とても丁寧に花をよりわけているのが
その証拠。そんなことが、なんだかとてもうれしくなる。きみのことを
すごく好きだとおもう。

 いつかきみと一緒じゃなくなっても、こうやって今のことを思い出せ
ばぜんぜん平気。思い出は頼りになるんだってふと思って少し笑っ
た。ちょっと前のわたしには、きっとそんなのは全然まったくこれっぽ
っちも理解できなくて、記憶とかそういうのは全部重いことで、いつも
どうやったら今をリセット出来るかとか、どこか遠くへ逃げたいとか、
そんなのばかりを考えていた。何もかも捨てて、軽くなりたいといつ
も願っていた。でも今はこんなやり方もあるんだってわかっている。
わかっているんだ!

 部屋に戻ってまた二人は一緒に過ごして、それから何日も過ぎて、
気がついたら花瓶に挿したナデシコは枯れかけていた。

 わたしはとてもしあわせなんだとおもった。










  05. 時間について


 一ヶ月に一万円貯金するとして、いちまんえんって大金じゃん?

 で、それを一年。一年って長いよね? 子犬も成犬になるよね?

 なのに、溜まるお金はたったの十二万円。

 …おかしくない?

 絶対これどっかで搾取されてるよね?

 もっとこう、

 せめてさんじゅうまんえんくらいは溜まってもいいと思うんだ…。


 (彼女は屠殺場の牛を見るような目で僕を見て、
 すっかり冷たくなったマグカップを向こうへ下げて行きました。)


 (未来について、うっかり逡巡してみたりする、春です。)










  06. 愛について




 神様は小声でうたった

 「羽根が二人の顔にかかるとき

  彼の目に

  あなたの唇に

  さようならを 」



 わたし達はいつも

 一人きりで向かいあっていた












  07. 現実について


 昼下がり、学校帰り、京王線の、人のまばらな車内。
 スーツ姿で、棒付きキャンディくわえながら、眠る女の人。
 頬には涙の跡。(光の加減かもしれない)

 部屋。携帯着信。友人。疲れてるから出られない。
 9秒後、自動的に留守電へ。伝言無し。

 買ったばかりのミキサーに、氷、バナナ、蜂蜜、牛乳。
 うるさい音を立ててバナナジュース。
 口を付けたまま、イラク人がアメリカ人を殺す動画を見た。
 地獄の絶叫。押し込まれる刃。流れる血。
 (首ってこんな風に切られるんだ)
 カメラの前に掲げられる、切り離された死んだ首。
 表情の去った顔。たましいの去った顔。

 これは、今こうしているのと、まったく地続きなんだ。

 そんなことを思いながら、冷たい液体をぼんやり喉に送る。
 (心臓は少し早く打っていた)


 一眠りして、夜。

 昼間の着信は、自殺した彼のお兄さんからの通夜の連絡だったと、
 人づてに聞かされた。










  08. 資格について



 わかった。やっとわかった。


 もっと取り返しのつかないことをすればいいんだ。












  09. 時間について 2


 バスタブにお湯を入れている。ので、その30分くらいの
間に何か書こうと思った。ここのところいやな夢ばかり見
る。その事を考えるともう眠りたくないくらいにいやな夢
ばかり見る。シチュエーションは様々だけど内容は二つし
かない。ひどい事をするか、ひどい事をされるかだ。本当
にそれだけしか見ない。でも現実だって似たようなものか
もしれない。だとしたら冗長じゃない分だけ夢の方が幾分
ましだと考えることもできる。でもそんなのは嫌だ。毎日、
本当に最悪な、悲鳴をあげたいくらいの気分で目覚める。
目を開けたまま、何も見ずただ呆然と波が去るのを待つ。
涙を流すこともある。それでも一昨日くらいからは、目覚
めてすぐに音楽を聴くことを思いついた。これはすごく効
果があって、手早く気持ちを落ち着かせることが出来る。
キラキラした空虚な音楽を眠る前から用意して、ナースコ
ールを押すような必死の気持ちで、朝。控えめな音量でか
ける。最初は少しずつ、それからドミノ倒しみたいに心の
奥の色がざーっと連鎖していって、日常が戻ってくる。景
色が、生活が戻ってくる。ここまでで20分。しかし書きた
いのは全然こんな事じゃなかった。

 佐世保の事件の事を書こうと思った。クラスメートの
首を切った小学生の女の子のことだ。メディアは相変
わらず彼女の異常性や、ネットや、好きだった本や映
画なんかの話をしている。リアルのコミュニケーション
がとれないうちからネットでコミュニケーションさせるの
は危険だ、なんてすごい発言も見た。(僕にとって子供の
頃のコミュニケーションや政治の熾烈さというのはそれは
もう殆ど戦争だったんだけど、この人にとってはそうじゃ
なかったんだろうか?)でももうお風呂に入る。
せっかくなので一つだけヒント。

 この世界の物語が、飽和状態にあるんだ。

 じゃあ、また。
 お湯が。こぼれている。










  10. 恋人について


 お弁当箱のことをランチボックスと言ったのがきっかけで
 ほんとうの喧嘩になったことがある。


 二人は何かの間違いで同じ夢の中にいて、
 ある時ほんのはずみでそれがぱちんとはじけて、
 すべては消え去ってしまうんじゃないかと
 本気でそう信じあっていて、せっかくの二人の時間に
 手をつないで泣いたりとかしてた。


 携帯のメールアドレスを二人の連名にした。
 (いや、これはさすがに嘘だ。)


 いずれにしても、あれらのエネルギーは病気以外の
 何でもなかったと、今は静かにそう思う。


 バカな病気に、またいつかはやく罹ればいいと
 そんなことばかり考えて、また一日が死んでいった。


 こんな/ため息/ひとつ/つくたび/何か消えていく夜にも
 どこかで/今もきっと/回り続けてる/メリーゴーラウンド
 花火の雨/降りそそぐ/あの丘に/想い寄せて
 どこかで/誰か/涙流してるあの夜も/









戻る

↓ご意見ご感想など