11. 悪意について




 はじめに悪意があった

 実体のないそれがいつか意志をまとい

 本能をまとい

 原子を 骨を 肉をまとい

  宇宙に溢れた



 後に善性が生まれる

 其れらは 基調の事実を認めながら

 またある時は無きものとしながら

 悲しみ 慰めあう

 閉じた円環の中で

 手を伸ばし いつくしむように抱いて

 しかし それさえも悪意でしかないのだ



 私達の愛は はじめから穢れている










   12. 関係について


 対等の関係、というのがそもそも幻想だと思うのです
 バランスのとれた関係、ならあるかもしれません

 それはそうだよね、とわかった風にうなづきながら
 それでもあなたが対等の関係に固執する理由はなんですか?

 コインを入れたら、飲み物が出てくるような約束を
 相手に求めているからですか?

 正しいことをしているから正しいことが返ってくる
 それはあなたが思う正しいことをして、
 あなたにとって正しいことが返ってくるという
 身勝手な、まったくのエゴなのに
 まるでそれがお互いのためであるかのように
 対等な関係という言葉を使う
 それは、従属させていることに他ならないのでは?

 なるほど、お互いを従属させているという意味では
 対等かもしれませんね。

 でもそれが愛だと、神様に、自分に、誓えますか?
 はやく、もっと、しっかりと考えてください
 秋に枯葉が積もるように
 冬に土壌へと還っていくように

 そして、もうそれらとはいっさい関係のない
 一人きりの深い地獄に落ちてください

 はやくはやく早く。 この恥知らず共め。










  13. 視界について


 嗚呼、もうおしまいです
 わたしから見える景色のいっさいが
 遠くの端から順繰りに無化され
 わたしに迫って来ます
 ゴウゴウと頭の芯から音が聞こえます
 まるでドミノのようです
 わたしの愛した世界が
 一斉に
 おどるように
 わたしを睨みつけながら倒れて行くのです
 わたしは
 どうして黙ってそれを最後まで待つことができましょう
 しかしどちらにせよ
 わたしはもうおしまいなのです


 わたしの跡地には
 ヨドバシカメラを建ててください










  15. 位置について


 私は肉体を憎悪します。私は心を信じません。
 私の子宮は血を流しません。私の精巣は涙を流しません。
 私はトランスヴェスタイトではありません。
 私は両性具有ではありません。 私は第三の性です。
 私は聖なる者を犬に遣わしません。
 私はセックスを滅ぼします。
 私の心と思想は おざなりに剥離しています。

 私は恋人を愛しています。恋人は私を愛しています。
 しかし私達はお互いの望むようになれません。
 私達はいつか私になります。
 なのに今していることを 未来において
 どう思うべきなのかを 知る術を持ちません。
 私達は完全に世界から孤立しています。
 しかしその膜はビスケットに塗られた砂糖蜜のように
   まるで滑稽に甘く薄くもろいものだと知っています。

 それとは全く関係なく 私は自分の未来を信じています。
 これまで失ってきたものを信じています。

 私は弱いものを嫌います。
 私は強いものに近寄りたくありません。
 私は中庸を愛します。
 私は誰にも決定されません。
 私は少しだけ決定します。
 私は私の選択を信じません。

 私はどこにも行きません。
 私はここにはいません。
 私は 無き者です。










  16. 8月31日について


 秋を始めようと、秋刀魚を焼きました。

 軽く塩もみをした後、丸のままのそれを流水で洗い流し
 ていると、普段私達が口にしているものはそれぞれが
 疑いようもなく死体なのだと、再確認させられます。
 少し、喉元がむっとします。指の先のやわらかい反発に、
 恐れを感じます。畏れを感じます。

 大根おろしとめかぶのお味噌汁と共に美味しく戴きました。
 生焼け気味でその後少し気持ち悪くなりました。
 でも肉類は基本的に生焼けの方が美味しいですよね。

 とにかくこれでもう、夏を言い訳には出来なくなりました。

 困った。










  17. 質問について


 じゃああなた方は
 あなた方の仰るような
 そのどんくさい愛で 何が出来たというんですか。

 世界がもっとシンプルに出来ていればいいなんて
 僕は、全然、これっぽっちも思わない。

 *


 陽ざしにただ、ためらううちに一日が過ぎていけばいい。
 過ぎていけばいい!!










  18. 良識について


 むしろ会話こそが最後の手段であるという考え方はどうか。


 僕はどちらかといえば仔猫を殺して喜んだり、
 シリアルキラーのひとの日記に共感して涙を流したり、
 小さい女の子にひどいことをして射精したりする側の人間なので。
 出来るだけ普段からいい気にならないように。
 つとめて、あらゆる欲望を殺し、少しへこんだ気分を守って
 いつまでも暮らしていこうとしていた。していたのに。


 僕の瞳に差し込む、あらゆる金色の
 啓示のようなあたたかな光。美しい世界。

 それと、哀れ育ちの僕の中身すべて。


 小さな匙で静かに掻き混ぜて、
 どこにも繋がらない穴へ流してしまえればいいけど。



  ”ここからが現実の罪の償いだ”








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