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■ 少女アリス(サマンサ・8歳、撮影:沢渡朔、1973年・河出書房新社)

 「少女アリス」は、1973年、河出書房新社から発行された。カメラマンは沢渡朔(さわたり・はじめ)である。(沢渡氏は私と同じ1月1日生まれだ。同じ誕生日の人というのは、何だか他人という気がしないなあ。当然、星座も山羊座で一緒だし……)。
 アリスのモデルとなったのはサマンサちゃんで8歳のイギリス人。アリス・リデルと同じ牡牛座の少女だ。ただ、アリスが黒髪だったのに対して、サマンサは完全な金髪でウェーブがかかっている。瞳は底なし沼のようなグレイ。黙って立っていると、お人形と間違えそうな少女だ。
 撮影は、ロンドンの街、オークリーコートのビクトリア朝時代の屋敷、ウェールズの廃墟などで行われている。やっぱり、アリスの生まれた国で撮った写真はどこか違う。この写真集を見ると、撮影をイギリス以外の地で行うことなんて考えられなくなる。もし、アリスをテーマに、日本の少女を使って日本で撮るのならば、徹底的に和風で撮ったほうがいいだろう。ビクトリア朝のイメージを求めるよりも、一貫して和風で攻めた方がいい。もし私が撮るなら、絶対にそうする。「神話少女」や「千と千尋の神隠し」(これは写真集じゃないけれど)は、そういう意味で間違った方向じゃないと思う。

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 「少女アリス」は、「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」をテーマにしている。1枚1枚が芸術的にとてもレベルの高い写真だ。充分にテーマを活かし、表現していると思う。もちろん、キャロルの得意だった(?)少女の裸の写真もふんだんにある。サマンサは幼い体型ながら、とてもエロティクに感じる。少女はこんなに幼い頃から、ドキッとするような色っぽさを内に秘めているのだ。吸い込まれそうになるくらいの官能美。レンズを見つめるサマンサの瞳に、私は誘惑されそうだった。

 ところで、もしキャロルがこの写真集を見たならば、大いに感激するに違いない。百年以上も経った後、東洋の隅にある日本のカメラマンが、こんなに素敵な写真を撮るなんて……キャロルは感激と共に、カメラ技術の大きな進歩を見て嫉妬心を持つかも知れない。
「ああ、こんなに素晴らしいカメラとフィルムがあの時代にあったなら、私はもっと素晴らしい写真が撮れただろうに……アリスだって、蝋人形のようにじっと立っていなくて済んだよ。少女たちはいつも活発に動き回っているのだ。あの可愛らしい瞬間を印画紙に焼き付けるのは、私の永遠の夢だった」

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 今回久しぶりにこの写真集を見て感じたことは、「過ぎゆく時間への哀愁」とでも表現すべき不思議なものだった。20代の頃には、サマンサのエロティクな面ばかりに目がいっていたのかも知れない。年を取るに従って、今という時間の大切さが身にしみてきたのだろうか? 「少女アリス」には、栄華を誇ったビクトリア朝への郷愁とともに、流れゆく時に対する寂しさを感じてしまった。
 なお、下の写真は、ユリイカ(1974年2月号)の表紙を飾った作品だ(撮影は同じく沢渡氏)。過ぎゆく時間に逆らって、このまま愛する少女を飾り窓の中に閉じこめておきたいという欲求。温室に咲く観葉植物としての美少女。写真集「1311」の水槽に閉じこめられた亜季ちゃんを連想させる作品だ。

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