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■ 作品:コミック「ヴァンデミエールの翼1、2」
■ 著者:鬼頭莫宏
■ 発行:「アフタヌーンKC(講談社)」(1997年4月23日・第1刷発行)

 ヴァンデミエール。君は魂を宿した自律胴人形。その天使の翼は、永遠の憧れ を持った人間にしか見えない。君は10月の颶風(ぐふう)とともにやって来た。強 く吹き荒れる風にスチームカーの煙は真横に流れ去り、君の聖なる翼の白い羽 根は宙に舞っていた。そのヴァンデミエールに密かに思いを寄せる少年はレイと いう。風に流されてきた君の白い羽根を拾った時、レイは永遠の憧れを知った。 それは切なくも甘い想いだった。街道のずっとずっと先の見知らぬ街を夢見るよ うに、それとも、遥かに広がる水平線の彼方にあるエメラルドの国を思い描くよう に。
 ヴァンデミエール。膨らみかけた胸もあらわに、サーカス団の座長の慰み物とし て可愛がられている少女。時には、旅先の村で男達の慰みものにもなる。
「まるで死体をもてあそんでいるようだ」
 村の男達は酒を飲みながら驚嘆する。
 ヴァンデミエール。君はこのつらくて苦しい現実の世界から逃げることは出来た のか? 背中に生えた翼を使って自由の世界に飛び立つことが出来たのか? 
「私はまるで羽根切りされた小鳥のよう」
 本当の自由を求めて、ヴァンデミエールは教会の高い塔からジャンプする。ある いは、空高く浮かんでいる飛行船から飛び降りる。しかし君は死なない。ただ自 動人形としての躰が破損するだけだ。その躰が二つに引き裂かれようとも死ぬこ とはなかった。
 ・・・いつしか時は流れ、少年だったレイは年老いて死んだ。少年の時に恋した ヴァンデミエールを一生想い続けて死んだ。他の生身の女性に恋することなく、 永遠に少女のままのヴァンデミエールをずっとずっと憧れ続けて、そして死んだ。
 ヴァンデミールは街の小さな骨董品屋で永い眠りについていたが、レイの死とと もに目覚めた。彼を訪ねるヴァンデミエール。レイの死体と一晩を過ごすヴァンデ ミエール。裸になった彼女は言う。
「私が死体をもてあそぶなんて」
 翌日、レイの死体はヴァンデミエールの翼とともに燃やされた。翼を失った彼女 はレイのオートバイに乗って走りだす。彼女の向かう先は? 街道のずっとずっと 先の見知らぬ街・・・

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「ヴァンデミエールの翼・1」 第1話「ヴァンデミエールの右手」/鬼頭莫宏

 「ヴァンデミエールの翼」は「アフタヌーンKC」に1996年から98年にかけて掲 載された。作者は鬼頭莫宏氏である。全8話で現在は単行本2巻に収録されて いる。ヴァンデミエールは一人ではなく、色々なタイプの姉妹が存在する。年齢的 には12歳から17歳くらいまでだろう。奇科学が生み出した奇跡的な自動人形で あるヴァンデミエールには、不思議なことに魂が宿っている。観用少女(プランツ・ ドール)が徹底的に受け身で可愛らしさが強調されているのに対して、ヴァンデミ エールは自立を求める想いもあってかなり積極的であり、また同時に天使のま がい物としての悪の匂いと深い悲しみも持っている。
 少年レイはヴァンデミエールに恋をするが、この作品の中では少しも違和感が ない。人形に恋をする話としては、ホフマンの「オランピア」がある。江戸川乱歩 の「押し絵と旅する男」は人形ではないが、押し絵の中の女性に恋をする男の話 だ。
 人形を恋い慕うこと。それはセックスと直接結びつかない恋であり、ニンフェット への愛にも似ている。こういった愛は、性的な成就がないだけに、より純粋で深 いものになるのだろう。
 きっと、そうに違いない。

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「ヴァンデミエールの翼・1」裏表紙絵/鬼頭莫宏



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