MSCBに関する一考察
(2)下限転換価額無しのMSCB



〜下限転換価額無し=下限価額1円?〜

 既存株主にとって、最も悪影響が出やすいのが、下限転換価額が定められていないタイプのMSCBです。
 下図に、このタイプのMSCBの株価と、転換価額の関係を示します。

転換価額無しのMSCBの転換価額の変動
図1 下限転換価額無しのMSCBの転換価額の変動


 株価が下落すると共に転換価額は下方修正される(すなわち、転換株式数が増大)一方で、株価がその後上昇しても、転換価額は低いままです。

 このタイプのMSCBを発行する企業は、業績不振、かつ売却可能な資産もない、危機的状況にあることが多いように見受けます。
 そのため、運転資金や新規事業を行うための資金を調達することを目的と言うことにして、MSCBを発行するようです。

 さて、企業の方はMSCBの発行で返却しなくて良い資金が入って終了ですが、MSCBを引き受けたヘッジファンドのみなさんはどのようにMSCBを利用し儲けるのでしょうか?
 この、引き受け手が儲けるための方法で、個人投資家が損失を被る結果となるのです。
 MSCBの引受金額は引受時に決まっていますので、ヘッジファンドにとっては株価が下がれば下がるほど手に入る株数が多くなります。
 そして、意図的に株価を下げる方法として空売りがあります。空売りする株数が多くなればなるほど、株価と転換価額は下がり、ヘッジファンドが行った空売りの含み益は大きくなります。
 そして、空売りした株は、買い戻しなどは行わずにMSCBを大きく下方修正された転換価額で株式転換して現物渡しすれば終了です。つまり、売り抜けする際の値段変動を全く心配しなくてすむのです。

 これを図で示すと、下図のようになります。

MSCBと空売りで利益を出す仕組み
図2 MSCBと空売りで利益を出す仕組み


 この場合のヘッジファンドの利益は、

利益額=空売りした(平均)株価×株数−(平均)転換価額×株数

 になります。
 つまり、空売り開始前の株価とMSCBの転換価額の差が大きいほど儲かる仕組みになっています。したがって、MSCB発行直後(発行前に空売りを開始する場合は発行前)から発行会社の株価は急落することが多く、既存株主は大損することになります。
 さらに、転換価額が下がると共に、転換株数も増えていきます。すなわち、株価下落がさらなる空売りを可能とします。このため、株価下落と、株式価値の希薄化が連鎖的に続きます。
 歯止めとなるべき、下限転換価額も設定されていないので、全てのMSCBが株式に転換されるまで、株価の下落と、株式価値の希薄化は続くことになります。

〜そして、マネーゲーム用おもちゃへ〜


 資金不足にあえぐ発行企業にとって、MSCBは返済の必要がない資金を得られるうえ、通常の増資の際に求められる信用も大して求められない打ち出の小槌のようなものです。
 信用不安から、銀行借入を断られ、社債の発行も出来ず、増資を行うこともできず、資金繰りに行き詰まる寸前で最後にたどり着く逆転(?)のための禁じ手ともいえます。
 そして、一度MSCBに手を染めてしまうと、何度も発行してしまい、最後には破綻する事例が多数を占めます。新規事業に展開すると華々しく発表し、何も始めた気配がないのにいつの間にか撤退し、特損を計上する例も枚挙に暇がありません。そして、いつしか資金を食いつぶしてしまいます。
 しかしながら、私は、ただ一点、たとえ下限転換価額がないMSCBの発行であっても、既存株主にとって利益になる点があると考えています。
 それは、資金ショートによって倒産するはずだった企業がMSCBから得た現金収入で延命する事によって、既存株主が保有している株式も、一夜にして1円になることを免れ、逃げ場を与えられつつ下落していく・・・という点であります。
 1円になってもなお、倒産も上場廃止もせず、デイトレーダーのおもちゃとなっているヘラクレス銘柄があるのは皆様ご存じかと思います。ここも、MSCBを発行しています。
 仮に、まだ全て転換されていない場合、現在の転換価額は1円・・・今後、株式併合があったりした場合はさらに下回るかも知れません。
 そのような企業が、上場を続けていられること自体が不思議であると言うべきでしょう。そして、その原因となった転換価額1円のMSCBも。


MSCBに関する一考察 (1)MSCBの概要
MSCBに関する一考察 (3)下限転換価額付きのMSCB

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 参考資料
 FP総研 株主は食い物にされる?MSCBって何?
 宝田豊のマネー砲談 さん 「MSCBは象の墓場への切符である」(vol9,第40回)



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