MSCBに関する一考察
(3)下限転換価額付きのMSCB



〜希薄化リスクの限定 下限転換価額〜

 最近、最も多く発行されているのが、下限転換価額が定められたタイプのMSCBです。
 このタイプのMSCBを発行する企業は、新興企業、特に、IT関連や不動産関連の会社など、急成長する業界の中で、規模の拡大を急ぐ企業が、手っ取り早く資金(または資本)調達を行う手段として用いることが多いようです。
 さて、通常、下限転換価額は、当初転換価額(≒MSCB発行決定時の株価)の何%と言う形で決定されます。
 たとえば、当初転換価額が500円のMSCBについて、下限転換価額が当初転換価額の50%と定められたとすると、下限転換価額は、500円×50%=250円となります。
 この場合、転換価額は、株価下落と共に下がりますが、株価が250円を切っても、転換価額は250円で固定されると言うことを意味します。
 言い換えると、MSCBを転換して得られる株式数は、株価がいくら下がっても、当初の転換株式数の2倍までに限定されると言うことです。
 なお、その後、株価が250円を上回ったとしても、転換価額は250円のままです。
 この場合の、株価とMSCBの転換価額の関係を図で示すと、以下のようになります。

下限転換価額50%のMSCB
図1 下限転換価額50%のMSCBの転換価額の変動


 (2)で説明した「空売り→株価暴落→MSCBを転換して現渡し」の戦術はこのタイプでも実行可能ですが、下限価額の250円以下では空売りしても利益を出せなくなるので、株価下落には一定の歯止めがかかることが期待できます。
 したがって、下限転換価額付きのMSCBは、下限転換価額がないMSCBよりは株価下落・希薄化のリスクが限定的であると言えるでしょう。

〜信用と金利のはざまで MSCBのメリットに関する一考察〜


 このタイプのMSCBを発行するような、急成長中の企業が抱えている問題として、資金需要は極めて旺盛であるが、その資金需要を公募増資や借入金で補うには、経営基盤や社会的信用が十分では無いという点があると考えております。
 すなわち、公募増資で調達しようとすると、十分な応募があるかわからない、また、株数が少ないので新株が市場に出回ると共に、需給のバランスが崩れ株価が急落するリスクがある。
 一方、借入金で調達しようとすると、信用リスクの面から融資を断られたり、高い金利を要求される、と言うことです。
 また、転換価額の修正がない普通のCBは、株価がファンファメンタルズ的な観点から見て高値にあり、株価の下落リスクが大きい場合は、株価下落で資金が塩漬けになる可能性もあり、引き受け手にとっては、魅力的とは言えないこともあると思います。
 そこで、これらの問題を解決する手段として、

 ・引き受け手は、転換価額が下方修正されることで株価下落のリスクを回避できる
 ・発行企業は、信用が十分でなくとも、金利が低く、かつ転換されれば償還の必要がないCBの発行で資金調達を行える

 という、引き受け手と発行企業の双方にメリットがある資金調達の形態としてMSCBが出現した、と考えることは出来ないでしょうか?

 MSCBは株価下落の際に株式の希薄化を進行させ、結果として既存株主に損害を与えると(2)で説明しましたが、その一方で、MSCBを発行せずに、銀行借入で資金調達を行った場合のことを考えてみて下さい。
 信用力に劣る企業と言うことで、金利は、大手企業よりもだいぶ高く決められることが予想されます。
 そして、多額の支払利息が、経常利益や税引き後利益を圧迫する結果、一株利益を低下させ、ひいては株価下落の原因となる可能性があります。また、財務内容の悪化も弱気材料とされる可能性があります。
 その一方で、MSCBは、(潜在)発行株式数の増加という点で、一株利益を低下させます。
 市況の低迷、または経営の低迷で株価が下落した場合は、転換価額の下方修正に伴う(潜在)発行株式数の増加で、(潜在)一株利益の低下はさらに顕著になります。株価下落に関するレバレッジ効果が発動する、とも言えると思います。
 しかしながら、経営が順調に進み、株価が当初転換価額を上回り続ければ、転換価額の下方修正による株式の希薄化は発生しないため、一株利益をはじめとする株式価値の低下は、銀行借入で資金調達した場合よりも小さくなる可能性もあると思われます。
 つまり、経営が順調に進み、株価が堅調でありさえすれば、MSCBはCBと同じようなもので、ことさら悪材料視する必要は無いとも言えます。
 また、下限転換価額が定められているので、株価が下がったとしても、希薄化リスクは限定されます。

 MSCB銘柄についてファンダメンタルズ分析を行う場合は、業績推移の予想に加えて、株価推移の予想も行う必要があると思います。
 特に、人為的に株価暴落と希薄化を引き起こす原因となりうる、空売りで株価を崩されるリスクをどうとらえるか、が重要であると考えております。
 その上で、転換価額下方修正のリスクを考慮しても「買い」であると判断できるのならば、MSCB発行を、弱気材料ではなく、むしろ強気材料としてとらえることも出来ると思います。
 むろん、株価が下落して、一番痛い目にあうのは誰か、と言う点を考慮した上で判断することが必要であると思います。

MSCBに関する一考察 (2)下限転換価額無しのMSCB
MSCBに関する一考察 (4)リセット日の概要と意義について

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