MSCBに関する一考察
(5)転換価額の上方・下方修正条項付きMSCB



〜転換価額は株価に連動 概要〜

 MSCBは、主に転換価額が下方に修正(Moving Strike)されるCBであるとここまで解説してきましたが、最近、転換価額が下方修正されるだけではなく、上方修正も行われるMSCBが登場しております。このような場合、転換価額は上限転換価額と下限転換価額の範囲内で、株価と連動することになります。
 一例として、当初転換価額が500円、上限転換価額が1000円(当初転換価額の200%)、下限転換価額が250円(当初転換価額の50%)のMSCBの株価と転換価額の関係を図示します。

転換価額は株価250円以上1000以下の範囲では株価に連動
図1 上方・下方修正条項付きMSCB

 つまり、基本的には当初転換価額の50%〜200%の間では、転換価額=株価である、といえそうです。また、(4)で説明したリセット日が定められている場合は、株価と転換価額の関係は図2のようになります。この場合、リセット日は1ヶ月毎と定められている場合が多いようです。

リセット日の間隔は短い
図2 リセット日付き上方・下方修正条項付きMSCB

 実際には、転換価額=株価ではなく、転換価額は株価の90%程度に修正されることが多いようです。つまり、株価400円の時は、400×90%=360円に修正されます。すなわち、転換価額が上限転換価額1000円となるのは1000÷90%=1111円以上の時、下限転換価額250円となるのは250÷90%=277円の時となります。
 当初転換価額=発行日株価、リセット日以降の転換価額=リセット日の株価の90%と仮定した場合の株価と転換価額の関係は図3の通りとなります。

リセット日直後に転換→売りで確実に利益
図3 転換価額がリセット日の株価を下回る水準に設定されるMSCB

 この差額の10%分が、MSCBの引き受け手にとっては約束された収益となります。リセット日付きの場合は、リセット日以降に株価が上昇すれば、さらに利幅は大きくなります。
 その一方で、株価が値下がりした場合は、転換価額の下方修正により、(下限転換価額に到達しない限りは)最低10%の利幅が確保されます。また、下方修正のみのMSCB同様、空売りにより株価を引き下げ、現物渡しで精算し、利益を出す戦術も利用可能です。

〜上方修正条項は申し訳? 考察〜


 なぜ、第三者割り当て増資のような一般的に行われる形でなく、転換価額が株価に連動する新株予約権付社債などという回りくどい手段を用いるのでしょうか?
 考えられる動機としては、引き受け手側にとっての「第三者割当増資を引き受けた後で株価が下落するリスクを回避したい」という問題と、発行企業の「普通社債(SB)や借入金で資金調達するには金利が高くなりすぎる」という問題があります。
 これらの問題点を回避するための手段として、「社債だから(基本的には)元本保証で、かつ、転換価額の修正と、株価を1割程度下回る転換価額で株式に転換できるため、ある程度の収益(売却益)も手に入る」「CBなので、金利は低く、転換されれば償還しなくてもよい」という両者のニーズを満たす今回のモデルが考案され、発行されるようになったと捉えることが出来ます。
 要するに、「安全かつほどほどのリターンを得たい」という引き受け手側と、「自社の信用がやや低いが、なんとか資本増強したい」という企業側とのニーズが合致したことにより生まれた、ということが出来ると思います。その点では、信用状態がやや劣る企業にとっての、新しい資金調達の手法であるといえるでしょう。

 ですが、その一方で、下方修正条項のみのMSCB同様、空売りで株価を一気に下げたところで転換を行い、現渡しで清算し利益を得る手法も、下方修正のみのMSCBと同様、利用可能な点は警戒するべきであると思います。
 また、(4)で説明したような下方修正のみのMSCBのリセット日が半年、または1年ごとであることが多いのに対して、今回説明したタイプのMSCBはリセット日が1ヶ月毎など、短期間であることが多く、売り圧力が発行後すぐにかかってくる可能性が高いことも、考慮するべきであると思います。
 大変意地の悪い見方をすれば、転換価額の上方修正条項という「申し訳」をつけるのと引き替えに、リセット日の間隔を短くし、転換価額を時価(リセット日の株価)を下回る転換価額に修正することで、MSCBの引き受け手は、より短期の保有でより大きな利益を上げられるようになったと見ることもできます。
 はたして、このタイプのMSCBが、企業と引き受け手のニーズから生まれた新たな金融商品なのか、それとも上方修正条項は単なる申し訳で本質は下方修正のみのMSCBと何も変わっていないのか、それともどちらでもないのか、その辺の判断は人それぞれ、また発行した企業の普段の行いで変わってくると思います。


MSCBに関する一考察 (4)リセット日の概要と意義について
MSCBに関する一考察 (6)まとめと提案

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