MSCBに関する一考察
フジテレビジョン(3)
ライブドアのTOB成功可能性とMSCB活用による防御





 前回は、ライブドアがフジテレビジョン(以下フジテレビ)株の33.4%を取得する可能性について考察を行いましたが、最近、ライブドア「関係者」から、真偽はさておきフジテレビ株の過半数取得を目指すことを検討しているという情報が流されつつあります。
 今回は、ライブドアによるフジテレビ株過半数取得の難易度について、いくつかの状況を例にとり考察してみようと思います。

〜MSCB転換 vs 議決権復活 持分拡大に向けた戦術〜


 ライブドアは、一説には3000億円とも言われる巨額の資金によりフジテレビ株のTOBを行い、一気にフジテレビ株の過半数を押さえると噂されております。
 しかしながら、TOBを実施したとしても素直に売却する株主だけとは限らないものです。さらに株価が上がることを期待し様子見に終始する者あり、株式持ち合いや業務上深い関係のため価格がいくらであっても売却を拒む者ありと様々であります。
 また、ライブドア側としてはなるべく少ない資金で買収を行いたいこともあり、様々な戦術を駆使するものと考えられます。その一方で、フジテレビ側も様々な対策を打ってくることは間違いないはずです。

 そこで、両者の戦術について考察する資料として、今回のニッポン放送買収騒動発生時点、および現在のフジテレビの株主構成を図1の(1)、(2)にまとめてみましたのでご覧下さい。

多数派工作の戦い
図1 フジテレビ株株主構成の変化

 資料作成は会社四季報春号の情報を元にしました。大株主は上位10社まで記しております。
 各グラフの左側に記された株式数は、その時点における議決権がある総株式数です(失念株は考慮せず)。
 株式保有比率の合計が100%にならないのは、大株主の保有株式数のうち、千株未満の部分が把握できないことによるものと考えられます。
 「浮動株/特定株以外」については、

100%−(浮動株比率+特定株比率)=36.8%≒93万8000株


と算出しました。
 ここに入っている株主の皆様としては、主に、

・ライブドア(当時は1%未満?)
・外国人
・大口投資を行っている個人(投資額1000万円以上)
・投資信託
・取引先企業
・社員持株会(あるの?)
・フジ産経グループのえらい人
・フジテレビのえらい人
・ニッポン放送以外のフジ産経グループ企業

等が挙げられると思います。また、外国人比率についてはあまり当てにならないように思えますので、外国人の動向は公式発表にでている比率以上に重要であると考えております。

 本図において、左側の勢力ほど、(TOB価格が満足できるものならば)ライブドアによるTOBに協力的であることが予想され、右側の集団ほど非協力的と予想されます。
 すなわち、
・ニッポン放送がライブドアの支配下に入った場合、ニッポン放送持分は、ライブドアの意向に従うことになる。
・外国銀行(ステート・ストリート・バンク、バンク・オブ・バミューダ)および浮動株については、ほぼ確実にTOBに応じることが予想される。
・浮動株、特定株いずれにも属さない分については、保有者によって対応が分かれる。
・国内信託(日本トラスティ信託口、日本マスター信託口)については、基本的にはTOB価格次第で応じるか否かが決まると思われるが、何らかの意向に左右されることが無いとも言えない。なお、日本トラスティ・サービス信託銀行の株主欄に三井とか住友とかいう字が見える件については皆様のご判断にお任せいたします。
・東宝、文化放送、ヤクルトについては、TOBに応じないことを明言しているためTOBに応じる可能性は低い。
・大和の、ニッポン放送からの貸し株やMSCBの転換で得た株に由来する議決権は、フジテレビ側につくことがほぼ確実。TOBに応じることもまずあり得ない。
・自社保有分は言うまでもありません。自社株に議決権がない問題もいざとなったら何とかするはず。

と言う動向であると考えております。
 要するに、

ライブドア寄り:ニッポン放送(青)、外国銀行(青)、浮動株(水色)
中立:浮動株/特定株以外(緑)、国内信託(黄)
フジテレビ寄り:東宝・文化放送・ヤクルト(橙)、大和(赤)、自社(赤)

と言うことであります。
 ライブドアにとっては、このうち中立に位置する株(以下、中立株)の何%を取れば議決権の50.1%を占められるのかが、TOBの難易度となります。

 さて、今回の騒動、そもそもの発端は、ライブドアがフジテレビ株の22.5%を保有するニッポン放送の買収に取りかかったことでした。この作戦が成功すると、(1)に示したとおり、ライブドア側にはニッポンの持分がそのまま転がり込むことになり、フジテレビに大きな影響力を与えることが予想されました。この状態でライブドアがTOBをかけた場合、外国銀行と浮動株を合わせただけで合計42.0%にのぼり、外国人からも株を集めることができれば50.1%への到達は十分可能な状況でした。

 それに対してフジテレビがとった防衛策は、ニッポン放送発行の新株予約権引き受けに加えて、ニッポン放送持分のうち22万株を大和証券SMBCに2年間、株券消費貸借契約で貸し出させることでした(本契約は、ニッポン放送側からの返還請求は原則として認められていません=ライブドアはこの分の議決権を2年間取り戻せません)。また、これと並行して進めていたニッポン放送株のTOBが成功し、ニッポン放送が保有するフジテレビ株は議決権が失われた状態であります。
 これらの結果、勢力図は(2)の通りとなりました。ニッポン放送から大和への貸し株22万株は、この時点で議決権がある株式数219万5000株の10%以上を占める状態です。ライブドアがこの情勢から過半数を取るためには、中立株の53%以上を得る必要があります。ライブドア側の目論見は、堀江社長の想定の範囲内であったかも知れませんが大きく後退させられることになりました。
 現在(05年3月20日)は、この状態であります。

 さらに、フジテレビ側が実行可能な戦術として、MSCBを転換し、転換株式をそのまま自陣営で継続保有することがあります。
 3月22日以降、転換価額は23万8500円程度に上方修正されますが、大和はMSCBの転換により33万5000株程度の新株を得ることができます(以下では、MSCBの転換は転換価額23万8500円で行い、33万5000株を得たと仮定して話を進めます)。
 これをそのまま自社、またはフジ産経グループ等の自陣営で継続保有すれば、議決権がある株式数の13.2%を確保することになります。
 この場合の勢力図は図1の(3)の通りとなります。この場合、ライブドアは中立株の67%以上を確保する必要があり、50.1%の達成はより困難となります。

 一方、ライブドアの反撃手段としては、ニッポン放送の増資を行い、フジテレビが保有するニッポン放送株の持ち分を25%未満に希薄化し、ニッポン放送が保有するフジテレビ株の議決権を復活させることが挙げられます。
 この場合、勢力図は図1の(4)へと変化します。復活したニッポン放送の議決権は貸し株分を除き35万3000株分、発行済株式数の12.2%であります。これにより、今度は振り子がライブドア側へと振れ、50.1%を押さえるために確保が必要な中立株の割合は52%となります。

 ライブドアがフジテレビ株のTOBをかける場合、(3)または(4)の状態での実施になることが予想されます。
 その場合、ニッポン放送の増資を行い議決権を復活させた上で行うか、それとも、ニッポン放送の増資を行わず全資金をTOB用資金に充て一気に勝負をかけるか、堀江社長の重大な決断どころとなると言えそうです。

〜不本意な白馬 ニッポン放送一時焦土化作戦〜


 さて、ここまでは現時点と同様、ニッポン放送から大和への貸し株は22万株にとどまることを前提に説明してきました。しかしながら、フジテレビ側は、ニッポン放送について、いわゆる「焦土作戦」を行うことをほのめかしております。
 一方で、ライブドア側は、貸し株がニッポン放送に戻ってくる2年後まで待つ意思も体力もない事が推測されます。

 ここで、本気を出したニッポン放送が、焦土作戦の一環として残りのフジテレビ株も大和あたりに5年契約くらいで貸し出した場合はどうなるのでしょうか?

 この場合、勢力図は図2の(1)のようになります。

期間限定全株放出
図2 ニッポン放送保有株を全株貸し出した場合の株主構成

 ニッポン放送の持分がそっくりフジテレビ側につく形となり、ライブドア側はわずか20%弱となります。50.1%達成のためには、中立株の68%を得なければなりません。

 さらに、この状態でMSCBの転換が行われた場合の勢力図を図2の(2)に示します。
 この時点でMSCB転換株が発行済株式数に占める割合は11.6%であります。そして、これまたそっくりフジテレビ側につくことになりますので、ライブドアにとってはさらに厳しい展開となります。
 ご覧頂けますように、発行済株式数の43.0%はフジテレビ側が握ります。ライブドアは、残り57.0%の中から50.1%を集めなければならないのであります。中立株の83%、6分の5を押さえなければ経営権掌握はかなわないのであります。中立株とは言っても、この中にはフジ産経グループや取引先の保有株も含まれているのですから、達成は極めて困難であると言えるのです。

 以上に示しましたとおり、ライブドアによるフジテレビの支配は、たとえライブドア側が十分な資金を持っていたとしても、防御するフジテレビ側が適切な手段を取れば十分防ぐことが可能なのであります。



 しかしながら、この一連の騒動が実は意外なところで金融とメディアの融合をもたらす可能性があるのです。
 図2の(2)の右側にご注目下さい。MSCBの転換株と、ニッポン放送貸株分を合わせて発行済株式数の実に31.5%のぼりますが、これを大和が独占(押しつけられるとも言う)したらどうでしょうか。33.4%には2%ほど足りないものの、これはもう大和がフジテレビをグループ内におさめたと言ってもいいのではないでしょうか。
 かつて、堀江社長は自ら構想した仙台ライブドアフェニックスを犠牲に、東北楽天ゴールデンイーグルスを誕生させました。
 そして今、堀江社長は自らの人生を賭けて目指している「メディアとIT、金融の複合事業体」と言う構想実現には苦闘中であるものの、国内第2位の証券会社と日本最強のテレビ局を中核とする一大メディアグループの複合事業体という、21世紀にふさわしいダイナミックな企業再編の可能性を我々の眼前に示されたのであります(でも2年後に貸し株返還→円満離婚)。



◎ 本記事作成にあたり、株式掲示板で大変有益な討論をさせて頂きましたstockmanさんに感謝いたします。 ◎


親記事:MSCBに関する一考察 (5)転換価額の上方・下方修正条項付きMSCB
MSCBに関する一考察 フジテレビジョン(2) MSCBの転換とニッポン放送持分の希薄化

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参考資料

ニッポン放送貸し株の大和への議決権移転及びニッポン放送からの返還請求が不可能な件について:
 ニッポン放送プレスリリース
株券消費貸借について:
 特約付株券消費貸借取引とは(UFJつばさ証券)

注意事項:本文章はフジテレビジョン及びニッポン放送のプレスリリースを元に管理人(こみけ)が考察を行ったものであり、注意は払っておりますが、必ずしも正確ではないかもしれません。
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