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1999年、夏。 その年も暑かった。 夏祭りのカキ氷は、イチゴ味。プールの、水は、きらきら。海はみんなのはしゃぎ声と、一緒 に。蝉が鳴いていた。耳が、痛いくらいにね。 だけど、あの日、あの日だけは鳴いていたんじゃなく、"泣いていた"のかもしれないね。 小村 白(こむら しろ)、14歳。中学二年の夏の、お話。 ノストラダムスの予言の7月もあと少し。終業式の日。 「世界の終わりが来る前にしておきたいこととか考えてたのにね」って友達と言ってたら、男 子に笑われた。自分だってこっそり考えてたくせにね。 結局、ノストラダムスさんの予言は当たらなかった。当たらなくてよかった。でも、私は本気 で信じていました。バカだと思いますか。 あなたは「死ぬ前にひとつだけ、本当に一つだけ絶対願い事を叶えてもらえる」としたら、何 をお願いしますか? あなたなら。 くだらないって笑いますか? 私は、「慎ちゃん」に遭いたいです。 叶えてください。 慎ちゃんは、本名を"赤石 慎一"っていいます。 慎ちゃんと私は家が、おとなりの、おとなりの、おとなりどうしでした。イナカなので結構遠 かったです。角を三つ曲がって、まーっすぐ行ったところ。慎ちゃんは、教室の一番窓側、私の 列の左隣の、前から4番目の席に座っていました。 慎ちゃんは、その席がお気に入りでした。たまに吹く風が「気持ちいいーっ」て慎ちゃんが 言ってました。私の席からは、慎ちゃんの背中が見えました。他の男の子より少し小さめの慎 ちゃんの背中は、授業中いつも大きな笑い声と一緒に揺れていました。 慎ちゃんのとなりの席の友達が、慎ちゃんの横顔は"きらきら"だって教えてくれました。 いいな。 私は"アカイシ シンイチ"って響きが好きです。朝の会で、出席を取るときの"アカイシ シンイチ"の響きが好きです。「はい」って返事する慎ちゃんの声が、大好きです。それか ら、慎ちゃんの笑顔がもっと大好きです。これは、ナイショだけど。 慎ちゃんと、タケシ君と、亮くんと、かなちゃんと、私。同じクラスの、なかよし5人組。慎 ちゃんと私はよく一緒に遊びました。みんなと一緒のことが多かったけど。 暑い日は、みんなでプールに行きました。みんなでアイスを買って、食べながら帰りました。 私は、いつも、イチゴ味。慎ちゃんは、ソーダ味。しゅわしゅわが、「好きなんだぁー」って、 うれしそうに言ってたよ。 雨の日、慎ちゃんの家にスイカを持って行ったら、「やりーっ!」って喜んでくれました。そ の顔を見て私はうれしい顔をする。雨のゆううつが、すーっと、消えていく。 涼しく、なるね。 夏祭り。花火の日。赤にひまわりの柄の浴衣を着て行きました。慎ちゃんが、「浴衣、似合う じゃぁん」って、言ってくれました。 やったぁ。うれしかった。うれしかったのに。 暗くなって、打ち上げ花火がありました。男の子が、「たーまやーーー!」ってはしゃいでい た。それを見て、かなちゃんと私が、笑う。 慎ちゃんの、笑顔が、一番。 ごめんなさい。 慎ちゃんは、線香花火が嫌いなんだって。さみしくなるんだって。私が、笑ったら、「なんだ よぉ」って、すねた。 その一週間後、いつもみたいに、みんなとプールで泳いだあと、いつもみたいにアイスを買っ て、いつもみたいに、夕方の涼しい風でほてった体を冷やしながら、帰りました。ヒリヒリ。蝉 の声、ジリジリ。 帰り道、もう一人のご近所さんのかなちゃんの家から私の家までは、慎ちゃんと、私のふた り。どきどき、どきどき。 あの日、慎ちゃんが、寄り道しよって、二人で川原に行きました。 土手に二人で座って、私が、「夕日、さわれそうだねぇ」って言ったら、慎ちゃんが、「さ わったらあっちぃよー」だって。けけけって笑ってた。 「私、オレンジ色好き」 「お前は、白じゃんよぉ。けけけっ」 「私、白って名前やけど、オレンジと、黄色とそれから赤が一番好きなんよ」 理由が、慎ちゃんが、"赤石"って名前だからってことは、ナイショ。 しばらく、慎ちゃんは黙ってた。 私は、夕日でオレンジにきらきらしてる慎ちゃんの横顔を、見てた。こっそり。こっそり。 慎ちゃんが「あのさー」って言った。私は、「なぁにー?」って聞いた。 「タケルが、お前のこと、かわいーって」 「タケルが、お前のこと、好きだって」 私は、慎ちゃんを見た。慎ちゃんは、夕日を見てた。私は、「ふぅん」って言った。泣きそう だった。 私、「ばぁか」って言っちゃった。「慎ちゃんのばぁかー!」って。 そのまま、走って先に帰った。家に帰って、部屋に駆け上って、ベッドで泣いた。私は泣きつ かれて寝ちゃってた。 夜、電話が鳴った。 あの日、慎ちゃんは、大きなトラックにはねられて死にました。 私と別れて、家に帰る途中、寄り道してお花を取っていたんだって。ひまわりの花を持ってい たって慎ちゃんのおばちゃんが教えてくれました。 「私、白って名前やけど、オレンジと、黄色とそれから赤が一番好きなんよ」 あの日だけは、蝉がうるさく、なかった。 もっと、鳴いて。"泣いて。" 「浴衣、似合うじゃぁん」 私の泣き声を消して。 慎ちゃんに、「ごめんなさい」って言いたいです。 叶えてください。あれから5年。 慎ちゃんは私の中にいます。慎ちゃんの笑顔と、小さな背中と、オレンジ色の横顔と。 ソーダ味のアイス。 おいしーって。打ち上げ花火。線香花火、さみしーって。 過去の、お話。全部。ぜぇんぶ。 慎ちゃんが好きです。 今の、気持ち。 1999年、夏。 慎ちゃんの、夏。 |