『雨にぬれながら』    葉山みやこ


子犬のぬくもりは
においといっしょに 思い出になる
雨の日に抱きしめると においが強いのだ

埃をかぶった本のページは
端からだんだん色あせていく
その物語がよみがえる時
雨の音もよみがえる

けれども言葉は タイムカプセルではない
言の葉は 春の新芽のように つぎつぎと生まれ育つもの



学校帰りの黄色いカサの子どもたちが
黄色い長ぐつで作った足あとは
いつまで残っているかしら

あっ、トラックだ!
逃げなきゃ
ほらみんな、電信柱につかまって

子犬を抱いていた女の子がころぶ
ともだちの男の子は
服を汚したから、もう犬は飼ってもらえないだろうと言う


本当はやさしいのに この男の子は
女の子が子犬を捨てに行くときには
いっしょについていってあげようと思う
でも 男の子は負けたのだ
女の子のカサを拾ってあげた別のともだちに

トラックと子どもたちが去った後の道には
思い出がでこぼこと たたずんでいた
雨にぬれながら

詩誌「しけんきゅう」152号(2009年6月1日発刊)に掲載


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