『遠 雷』

春の宵、
誰もいない校舎の階段はひっそりとして
高い窓から入る光で少しだけ明るいが
それも次の瞬間には柔らかな宵闇に包まれてしまう。

少女は階段に腰掛けて何かを感受している。

薄明りの中、
かすかに流れる木蓮の甘い匂い
脱皮したばかりの紅羽蜻蛉(べにばかげろう)の透明な羽根
天井を舞う羽根が一瞬、紅く光る。
遠くから、遠くから聞こえてくる雷の音
青白く帯電する少女の髪の毛
今にも銀色の龍が現れて
少女を空の高みに連れ去ってしまいそうだ。

少女は硝子の目で、ひっそりと宙を見上げる。

*** 初出:『しけんきゅう』148号(2007年6月号) ***

enrai01.jpg

[TOP]   [詩の世界 TOPに戻る]