『エウロパ北域、第5間氷期の終り』

いつになったら乾いた青空が現れるのだろうか。
今日も細やかな雨がささやくように降っている。
外へ出て遊びたいけど
みんなみんな、家の中

どこかの家の格子戸が開いて
手鞠が雨の中に転がって来る。
灰色に煙った路地に、ぽんぽんと弾む手鞠
金糸銀糸茜色が縫い込まれた鮮やかな手鞠
かすかに少女たちの泣き声が聞こえて来る。
しくしくしく……姿は見えない。

空を見れば
疑似太陽がぶわぶわ揺れる。
海の底から見るように揺れている。
いい匂いのする乾いた時代はどこに行ってしまったのだろうか。

……刈り取りを終えた麦畑
地平線までゆるやかに続く麦畑
青ガラスの空が少しずつ橙色に変わっていく頃
遠くから風に乗って聞こえてくるのは麦笛か。
静かな大地に吹き渡る……

もう、そんな穏やかな夕暮れはどこにもない。
みんなみんな、水の底
初出:『しけんきゅう 149号』(2007年12月1日発行)

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