『三人の姫命(ひめのみこと)』

天空に赤い満月
その昔、戦争で壊された月球は
血のような色のまま、しきりに歪みあいながら
夜空をじりじりと移動していく。
動いていくのが見える。

ひたひたと打ち寄せる大潮
笙の音が不吉に響く中
ゆっくりとたゆたうように
巨大な社殿が海上を滑っていく。
ずぶりと沈み込み水底へと落ちていく。

沈みゆく沈みゆく社殿の奥
太古の神々の名を記した能舞台には
三人の姫命の白い姿
はらはらと音もなく胡蝶を舞っている。
姫命の衣から立ち上る四元腐食ガスは
二重螺旋を描いて上昇していく。

全てが海の底に沈んだ世界は
なぜ、こうも静かなのだろうか。
なぜ、こうも美しいのだろうか。

いつしか、赤い満月が沈み
天空には2番目の月が昇ってくる。
その色は青白い蛍光色だ。

初出:『しけんきゅう 150号』(2008年6月1日発行)

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