『広島平和記念公園を歩く』

雪の積もった平和公園を私はゆっくりと歩く。
明け方に雪は止み、
青深く澄み切った空を銀色の龍が横切っていく。

公園全体が白く輝く中、
平和の灯だけが遠くちろちろと燃えている。
(風と音が無いのは、どういうわけだろう。)

雪の積もった平和公園を私はゆっくりと歩く。
私の右側、芝生のあるところに、
こざっぱりとした夏服の女の子が立っている。
(雪の上なのに素足とは、どういうわけだろう。)

突然、口をへの字に曲げた少年達が私の傍を駆け抜ける。
痩せた背中に虫籠をぶら下げた子供が3人、
無数のアゲハチョウを捕まえようと網を振り回し、
相生橋に向かって飛んでいく。
(蝶の舞う空がこんなにも眩しいのは、どういうわけだろう。)

雪の積もった平和公園を私はゆっくりと歩く。
夏服の少女は元安橋の上空をじっと見上げている。
その細く小さな体は胸をえぐり取られたまま、
ひっそりと明滅し、また、透明になり、
少女の向こうにある峠三吉の詩碑が透けて見える。
(少女の髪が燃えるように赤い色なのは、どういうわけだろう。)

冷たく凍りついた午前8時15分
雪の積もった平和公園を私は無言のまま通り過ぎた。
(ああ、空はいつの間にか、真っ黒だ。)

*** 初出:『しけんきゅう』146号(2006年6月号) ***

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