『私に返してください』    葉山みやこ


誰かが窓を コトコトたたく

昨日は 風が強かったので
"私に返してください"という声がうるさかった

今日は 風がおだやかなので
不明瞭にささやく声は
窓ガラスを かすかにふるわせている

けれども きっと
昨日と同じことを言っているのだろう
"私に返してください"という声は
きっと 白いレースのカーテンあたりで
行き場を捜しているのだろう

風は 怒っているのだろうか
何を返して欲しいのか 言わない
風は 怒っていないのだろうか

きっと 何をなくしたのか分からないまま
不安にかられ
ぶつかるもの全てに
"私に返してください"と うったえているのだろう

部屋の住人は
風の声を感じながら
自分のなくしたもの 壊してしまったものを
指を折りながら数える
ひとつ、ふたつ、みっつ……やっつ……と
両手の指はすぐに全て折れてしまった

部屋の住人は
ためいきをついて立ち上がった
そして
カーテンを開き 窓を開け放ったのだ
まるで 迷い込んだ蛾を逃がすように

詩誌「しけんきゅう」153号(2009年12月発刊)に掲載



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