『風の気配』    葉山みやこ


§記憶1

虫たちが
  アンテナを調整している
花たちも
  太陽を求めて顔を上げている
おちゃめなリスは
  食事をちょっと休んで きょろきょろしている
地中の生きものたちも
  きっと何かを感じている
超然とした大木でさえ
  葉っぱたちのおしゃべりを聞いている
(季節の変わり目は 声のトーンが違う)

森全体が
  風と呼吸を合わせている

人里近くの小川では ミズスマシがスイと方向を変えた
(雨が近い)

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§記憶2

病院の屋上では
女の子が遠くの山と町を見ている
(病室の窓からは 別棟の壁と近くの屋根しか見えない)
けれども女の子は病室の壁のカレンダーを思い浮かべる
パパとママのバースデープレゼントは何かしら?

おばあちゃんの呼ぶ声がする
ふりかえると
おばあちゃんが小走りでやってくる
左腕に 女の子の「お気に入りのカーディガン」を抱えて

女の子は「お気に入りのカーディガン」に袖を通す
本当は ポケットのデザインが好きじゃない
それに このパジャマに似合わない
けれども不満げに言ったのは 夕食の時間が早すぎること

足元の小さなコンクリートの破片を軽くけとばし
女の子はお気に入りの場所を後にする


空では 雲がゆっくり動いている
『しけんきゅう 150号』(2008年6月1日発行に掲載)

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