『眩しい空』


時が満ち始める
銀色の磁気テープが月に向かって流れ出す
黄道光の淡い輝きの中を
無数の磁気テープはぎしぎしと流れていく
高層ビルの屋上で羽根を休めていた蝶たちも
磁気テープの共鳴音に誘われて静かに飛び立つ

ハッブル宇宙望遠鏡は
色とりどりの蝶の群れが月面を横切るのを見るだろう
剃刀のように鋭い磁気テープに羽根を切り裂かれ
ブラックホールに落ちていく蝶たちも見えるかも知れない
北極の夜空に架かるオーロラには
蝶たちのまき散らす鱗粉が
ダイヤモンドダストのように降りかかるだろう

そう、その時
矜羯羅童子(こんがらどうじ)と制吐迦童子(せいたかどうじ)を従えた不動明王が
忿怒の形相でハッブル宇宙望遠鏡に立ち顕れるのだ

不動明王達の読経の中で
幼くして死んだ少年や少女たちは瞬時に蘇り
ヒマラヤの白い峰々に降りてくるだろう
あるいは、見知らぬ丘の道の曲がり角にも
幼いままに時が止まってしまった子供達が
舞い降りてくるかも知れない

地上がオーロラの偏光に包まれる中で
子供らは私達に向かって
優しく手を差し延べてくれるのではないだろうか
全てを許してくれるのではないだろうか
あるいは、全ての都市は美しく燃え尽きるのだろうか
分厚く堆積した蝶の死骸と
道に散らばった黄や赤のマーブルチョコレートとともに

今、矜羯羅童子と制吐迦童子を従えた不動明王は
ハッブルの太い鏡筒に跨り
躰中に磁気テープを巻き付けたまま
杏のタネのような目を赤く光らせている
初出:『しけんきゅう』142号2004年6月1日発行

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