『桜の口づけ』


満開の桜の木の下に裸のまま横たわり
雨が降ってくるのを待つ。
しかし、快晴の空には雲一つなく
銀色の龍が彼方を飛び去っていくだけ。

花びらは惜しみなく落ち続ける。
誰もいない廃村の小学校。
朽ち果てた校舎には永遠に欠席のままの弟の机が
ぽつんと一つだけある。

ああ、私はこのまま、
花びらの中に埋もれてしまいたい。

いつしか夜が来て暖かな雨が降り出した。
こまやかな雨は桜の花びらを重たく湿らせ
それから、一滴一滴と落ちてくる。
花びらを通して感じるしずく。
まるで優しい恋人の口づけのように熱い。

うっとりと寝入ってしまう私。
満開の桜の木が全ての花びらを散らせてしまうまで
目覚めることはないでしょう。

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初出:(『しけんきゅう』140号2003年6月1日発行)