『すすき野原』

すすき野原の白い波の向こう側
遙か遠くに灰色の建物が見える。
蒼空を突き刺してそびえ立つ建物は
応用遺伝子研究塔だ。

そこには羽を拡げた無数の蝶たちが
展翅台の上でうっとりと微睡み
きらめく夏の夢を夢見ている。

地下室ではホルマリン漬けの胎児たちが
無限地獄の中で宙返りをしている。

最上階では抜け落ちた羽根を両手に抱えた少年が
DNAの螺旋階段を上ったり降りたりしている。
クリスタルのシャーレの中で秘めやかに息づく生き物は
汚れのない少年の心臓だ。

年老いた研究員が銀色のメスでひと突きにすると
さわやかな血の色が部屋中に広がる。

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いちめんのすすき野原
日が西に傾き厚い雲に隠れ
辺りがぼんやりと光る時
赤とんぼの群れが空を舞いぐるぐる廻り風を起こす。
その風は冷たい。

初出:(『しけんきゅう』139号2002年12月1日発行)