![]() 真っ白てふてふさん 記憶の中にぽんと投げやりに置かれた 真っ白てふてふさん 春の 夢の てふてふさんが 今日帰ってくる。 私はすぐに制服を脱いで てふてふさんが大好きだった小花柄のシャツを着ようとしたけれども もう縮んでしまっていて着られなくて 私が大きくなったのか シャツが縮んだのかわからないけど とにかくきっと洗濯機のせい。 買い換えたいなと思いながらクローゼットにとびこんで 同じような 淡い 甘い 色のシャツを探したのだがそんなものない。 でもないのも困るので ふうわりした羽のような黄色カーテンをびりびりと破いて 自分のむきだしの体に巻きつけた。 それからダイニングのテーブルクロスをひったくって 日よけに頭からかぶって 細く 長い 道をかけだす私 駅まで走るのだ なるべく休まず走るのだ。 森を抜ける風はまだ冷たいけれど 雪はないから裸足でもなんとか走れるのだよ。 カブトの幼虫を テントウ虫を シロツメクサの新芽を なんでもかんでも踏み台にすれば すぐに森は抜けることができるのだ。 日差しに目を細める私 あ てふてふさんの電車が ごうごうと風を散らして 私の日よけのテーブルクロスを盗んでいってしまい てふてふさん てふてふさん 真っ白てふてふさん てふてふてふてふと飛んできた。 重そうな花粉の荷物を身にまとって 一瞬 太陽に真っ白が透けてわからなかったよ。 春の 夢の てふてふさんお久しぶりも言わず 私のおへそにとまる ゆっくりとまる。 てふてふさんの真っ白な羽のかたち 私の体に染みこんでゆく 染みてゆく。 もう大丈夫 と 私は思うのだ。 真っ白てふてふさんと私 春の 夢の 分厚い風 『しけんきゅう 149号』(2007年12月1日発行に掲載)
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