『エウロパ天守物語』

それは、月から長く伸びたブランコか。
成層圏の強い偏西風にあおられて
静かに大きく揺れている。
ブランコに乗るのは私
私ひとり。

ふらふら ふらここ
風速50メートル毎秒の風が
私の耳たぶをぎゅっと凍らせる。

足下には青く光る地球
金色銀色の釣り糸を地上に垂らせば
秋の草花が釣れそう。

ふらふら ふらここ
桔梗、女郎花、萩、葛、撫子、薄
いい匂い。

渦を巻く巨大な雲を背景に
色とりどりの蝶の群れがいっせいに舞い上がる。
舞い上がるのが見える。

ほころびかけたオゾン層
泥のついた靴先でかき回してみれば
光のさざ波とともに黒い穴が開いていく。
地上まで続く深い井戸

ふらふら ふらここ
足の指が不安で、くすぐったい。

それは、月から長く伸びたブランコか。
成層圏の強い偏東風にあおられて
静かに大きく揺れている。
初出:『しけんきゅう 153号』(2009年12月発行)




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