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多摩川の河川敷には送電のための鉄塔が立っている。遠く磐城平から無数の鉄塔を伝い延々と疾走してきた高圧電流は、それでも力を溜めながら闇夜には大蛇の眼光のようなスパークを発し、ほの明るい電磁波は周りの空気をイオン化している。懐かしくも温かな血の味が鉄塔を包み込む。 果てしなく続く鉄塔。その中でもひときわ高い鉄塔の頂きには、昔から魔女が住んでいるとの噂があった。時おり河川敷を訪れる カップルやジョギングする人間を、魔女は一口に取って食べてしまう。美しい少年だったら魔女の僕(しもべ)として丸められた紙屑のようになるまでこき使われてしまう。 しかし本当は、高い高い鉄塔の上に住んでいるのは小さな女の子なのだ。一度死んだ少女は普段は眠っているけれど、時おり目覚めることもある。そんな時には、退屈のあまりに塔の上から雨を降らしたり雪玉を落としたりはするが、人を取って食べるということはしない。それどころか、きれいな虹を多摩川いっぱいに架けることだってある。 木枯らしが吹く季節になると、少女は自分で作ったリコーダーを吹く。 もし、あなたが鉄塔の近くに居て、上空からぴゅーぴゅーという音が聞こえてきたなら、それは鉄塔や電線が風に鳴っているのではなくて、鉄塔に住んでいる少女が精いっぱいにリコーダーを吹いているのだ。 冷たく透きとおった青空いっぱいに響く笛の音。そして少女の息づかい。
掲載:『しけんきゅう』144号2005年6月1日発行
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