高尾山を守る運動から学ぶこと


高尾山の自然をまもる市民の会 事務局長
橋本良仁(よしひろ)さんに聞く







 28年におよぶ運動が収束


 高尾山は標高600メートルの低い山だが、植物の多様性では日本一を誇り、その種類は1300種にのぼる。
 1984年8月、その高尾山を自動車専用トンネルで串刺しにするという圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の建設計画が発表された。八王子市の地元住民は、高尾山を守るため、直ちに町会ぐるみで「裏高尾圏央道反対同盟」を立ち上げた。その後、つぎつぎと建設反対の市民運動団体が誕生した。「高尾山の自然をまもる市民の会」もそのひとつである。やがて、「市民の会」は高尾山を守る運動の中心を担うようになった。
 2000年には、国や道路公団を相手に高尾山天狗裁判を提起した。天狗裁判という名称は、昔から天狗は山の護り神といわれていたことに由来する。天狗裁判の原告には1300人を超える人々が加わった。
 しかし残念ながら、今年7月、東京高裁は原告側の控訴を棄却した。高尾山を貫くトンネルも今年3月に開通した。橋本良仁さんはこう言う。
 「裁判では勝訴することができなかった。しかし、28年におよぶ運動はさまざまな教訓や知見をもたらした。今後1年くらいをかけて、それを出版物にまとめる予定だ。全国各地の環境保護運動に役立つと思っている」


 “高尾山の自然を守ろう”を前面に


 「市民の会」の会員数は約1000人だ。その約半分は地元の八王子市民である。55万人都市で会員が1000人というのは驚きだ。
 「私が事務局長に就任したのは、いまから20年くらい前。それまでは“圏央道反対”が中心的スローガンだった。それでは運動を大きく広げるのはむずかしいと考え、“高尾山の自然を守ろう”のスローガンを前面にだした。これが功を奏し、共感してくれる人が増えた。『圏央道建設から高尾山を守ろう』と呼びかけるアピールには150人を超える著名人が名を連ねてくれた。アピールは、2005年4月26日、朝日、毎日、読売の新聞各紙(東京版)に意見広告として載せた。1998年6月からはじめた『高尾山にトンネルを掘らせない』100万人署名も55万に達した。数多くの科学者や研究者も運動に協力してくれた」


 今後の課題


 今後の課題の一つは、トンネルが地下水におよぼす影響を監視することだ。
「高尾山の豊かな生態系を支えているのは豊富な地下水。地下水が分断されれば、大きな影響がでる。現に、トンネル工事によって地下水位が大幅に低下し、環境破壊が現実のものとなっている。裁判所の判決も、トンネル工事による地下水への影響を認め、高尾山の貴重な生態系が失われる可能性を否定できないとしている。ところがトンネル開通後、国交省は観測井戸をすべて閉鎖し、地下水の観測を中止した。地下水への影響を隠すためだ。私たちは、観測井戸をもとにもどせ、と要求している。また、継続して山の表流水を調べることにしている」
 課題のもうひとつは、他団体の運動を支援することである。
「高尾山の運動で得た経験や知見を活用し、道路問題でたたかっているさまざま団体の運動や裁判をバックアップすることにしている」


 運動にかかわって30年、40年は当たり前


 「道路建設は公共事業の王様」「国滅びても高速道路あり」という言葉がある。高速道路計画が発表されると、それを中止させるのはなかなかむずかしい。
「これは月刊誌『世界』2009年8月号の座談会で述べたことだが、道路建設を止めるために活動している私たちの仲間は、困難のなかで日々つらい戦いを強いられている。運動にかかわって30年、40年などは当たり前で、一人の人間の人生の重要な部分を道路問題に費やさなければならないという人もいる」
「ある日突然、どこで計画されたのかわからない道路建設が新聞発表などで知らされる。自分の家を通過するという。国定公園の高尾山にも線が引かれる。いったい誰が決めているのか、誰のための道路なのかわからない。この国の主権者は本当に国民なんだろうかと思う」
 しかし、橋本さんはこうも述べた。
 「昨年の3月11日の東日本大震災以降、国民の意識が変わりつつある。だれかに託せばよいという意識が少なくなってきたようだ。それは、脱原発運動の盛り上がりが象徴的である。直接民主主義の傾向が以前より強まっているのではないか。そこにひとつの希望をいだいている」
 圏央道や外環道(東京外郭環状道路)は首都圏高速道路ネットワークの根幹として位置づけられていて、政府が国策として推進している。橋本さんたちは、何十年にわたり高速道路反対運動の中心をになってきた。頭が下がる。
(聞き手・中山敏則、2012年9月)






橋本良仁さん



すさまじい自然破壊。写真は圏央道の南インタージャンクション=高尾山側から撮影










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