強大な相手とたたかって勝つ方法

〜広く人びとに訴え、国民世論を力に〜


「よみがえれ!有明訴訟」弁護団長 馬奈木昭雄弁護士 に聞く








     ムダで環境破壊の公共事業を止めるための訴訟が各地でとりくまれています。ところが最近は、法廷外運動(大衆運動)を軽視し、法廷論争を偏重するとりくみも目だちます。そういう訴訟はほとんどが敗北です。そこで、いくつもの訴訟で勝利した経験をもつ馬奈木昭雄弁護士に、諫早湾開門訴訟の状況や裁判闘争の課題などを聞きました。馬奈木弁護士は水俣病訴訟や「よみがえれ!有明訴訟」など数々の訴訟の弁護団長を歴任し、被害者救済や環境保護の運動を先頭に立って続けています。 (中山敏則)


諫早湾開門をめぐる訴訟

     ──国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門の開門をめぐっては、開門調査を求める漁業者側と、開門に反対する営農者側が起こした相反する裁判があり、今年1月22日、最高裁は両裁判について国の抗告を棄却する決定を出しました。その結果、国は開門しても、しなくても制裁金を支払わなければならないという、まったく逆の判断を示した2件の間接強制決定が確定しましたね。

【馬奈木】営農者側が起こした裁判では、開門したくない国が、営農者側の請求にあうんの呼吸を合わせ、漁業被害など開門を必要とする事情をまったく主張・立証しない方針をとった。このため、開門の必要性は存在しないことになった。一言でいえば、国は自ら転ぶことによって開門禁止判決を得たということだ。私たちはそれを無気力相撲と言っている。
 国は、開門しない限り漁業者側に制裁金を支払い続けなければならない。逆に開門すれば、開門反対の農民たちに制裁金を支払わなければならない。現在は形式上そうなっている。これは、国(農水官僚)が、開門したくないという、ただそれだけのために自ら積極的につくりだした仮装の状況である。
 国が漁業者側に支払う制裁金は1日45万円である。昨年6月12日から、漁業者側の代表口座に月に一度振り込まれている。今年2月10日の支払いで総額は234日分、1億530万円となった。漁業者側はこの制裁金を有明海再生のために使うことにし、そのまま積み立てている。
 国民の税金を制裁金として何の反省もなく支払い続けて恥じない態度に、私たちは心の底から怒っている。農水官僚たちは国民の利益などまったく考えていない。ものごとを決定するのは官僚であり、被害者の要求などによってその決定を変更することは絶対にしない。官僚たちはそれを「国の根幹」と称している。
 私たち原告、弁護団、そして共にたたかう人たちの決意は明確である。ものごとを決めるのは主権者たる国民の意思である。決して官僚の意思ではない。私たちは官僚を国民の意思に従わせ、憲法を守らせるためには「力を持った正義」が必要だと痛感している。その力は国民世論の結集である。私たちは、これまで以上に創意工夫をこらし、共にたたかう人々の知恵と力を結集し、国民世論の支持、共感を勝ち得ていくたたかいを強めていく。
 まず裁判では、漁業者への制裁金支払いの免除を求める請求異議訴訟を国が起こした。しかし昨年12月、佐賀地裁は国の異議理由を一蹴し、漁民原告勝訴の判決を下した。私たちはこの訴訟を勝ち抜く決意でいる。さらに法廷外のたたかいとして、内閣、財務省、環境省などに対して解決を迫るとともに、その要求実現を求める国民的署名運動を開始した。開門に反対する地元住民とともに、農業か漁業かの二者択一ではなく、両方が共に豊かに前進できる方策の実現を呼びかける戸別訪問対話活動もはじめた。その中で、両者が合意できる対策づくりなども進めていく。


たたかいの主戦場は法廷外にあり

     ──馬奈木さんは、『弁護士馬奈木昭雄』(合同出版)や『たたかい続けるということ』(西日本新聞社)において「たたかいの主戦場は法廷の外にあり」と強調されています。ところが最近は、法廷論争や理屈勝負に傾倒しすぎる裁判闘争が流行(はや)っています。「正論は必ず勝つ」「正義が負けるはずはない」という言葉も耳にします。これらについて考えをお聞かせください。

【馬奈木】「正論は必ず勝つ」とか「正義が負けるはずはない」というのは空理空論だ。正論で勝てるのなら、住民運動や環境保護運動は必要ない。優秀な弁護士にまかせればすむからだ。だが、現実はそうなっていない。とくに国(官僚)が相手の場合は、裁判所は国に勝たせようとする。だから、国相手の訴訟で住民(市民)が勝つためには、運動を大きく広げ、世論を味方につけることが必要だ。いわゆる大衆的裁判闘争を繰り広げるということだ。国民の声や意思を目に見える形にし、裁判所につきつけなければならない。それをしないで勝つのはほとんど不可能だ。
 私たちは「勝負は法廷の中では決まらない。たたかいの主戦場は法廷の外にあり」というスローガンを掲げている。国にいうことをきかせたければ、国を圧倒する以外にない。圧倒する力を私たちがつくりだす以外にない。その力をどうしたらつくりだせるのか。私たちはそれを模索し、実践してきた。
 たとえば水俣病第3次訴訟(1980年〜)である。この訴訟で、熊本県とチッソは和解のテーブルについた。県とチッソは私たちの意見を聞き、私たちの意見にそった解決案をつくろうとした。そして、水俣病とは何か、何をよりどころに水俣病とみなすのかという病像(びょうぞう)についてまで、私たちの意見を聞く気になった。なぜか。それは文字どおり“力対力の激突”によるものだった。
 この訴訟で、県と私たちは裁判所の外で和解交渉を開始し、激しくやりあった。県は当初、私たちを相手にしないと言い放った。そこで私たちは1000人検診運動を提起した。水俣病の発生地域で新規患者の検診をやった。それはたいへんなことである。1000人を検診するためには数多くの医師の協力を得なければならない。弁護団と同時に、医師団もその気になってくれた。わざわざ病院もつくった。全国の医師にも呼びかけ、1000人の検診を私たちは実行してみせた。検診を受けた人たちを現地で組織した。そういうとりくみの結果、県は私たちを相手にしなければ解決しないことを認識し、方針を転換した。
 これが裁判に勝つということである。もっと正確に言い直すと、裁判に勝つかどうかはどうでもよい。大切なのは、被害者の要求を実現することである。そのためには、私たちはたたかう力を持たねばならない。そのたたかう力をどうやってつくるか。それが私たちの課題である。力を持たない正義は実現できない。力を持った正義が実現できる──。これが私たちの実感である。


勝つ方法を考えるのが弁護士の仕事

     ──馬奈木さんは「勝つ方法を考えるのが弁護士の仕事」も強調されています。

【馬奈木】裁判を起こす場合、弁護士が考えなければならないことがある。それは、どういう裁判をするのか、どういう法律構成にするのか、あるいは裁判をしないで運動で立ち向かうのか、ということだ。それを依頼者も含めてみんなで協力しあい、答えを見つけ出す。その見つけ出す仕事をするのが弁護士である。弁護士はオルガナイザーであるべきだ。
 どうすれば勝てるかという方法論をきちんと議論しない弁護団は、強大な権力相手の訴訟では勝つことができない。一般の住民や市民は、裁判を起こせばすべてが解決するかのように思いがちだ。そういう幻想は取り除いてやらなければならない。裁判闘争を法廷論争にとどめたり、対裁判所だけのとりくみに矮小化したりすることは避けなければならない。ようするに、法廷内でのたたかいと法廷外の運動を有機的に連動させるということである。それが大衆的裁判闘争とよばれるものである。大衆的裁判闘争を発展させるうえで、弁護団が果たす役割は重要である。そういう運動をやらない訴訟は敗北する。敗北すると「裁判官が悪い」「相手が悪い」と言う。それを言ったらおしまいだ。
 私が尊敬するある弁護士はこんな警告を発している。「最近の最高裁は、少数者や異端者は法的保護にあたいしない、法的保護は必要ないと考えている」と。そういう目で最近の判決をみてみると、なるほどと思う。
 水俣病訴訟では、最初は一人から出発した被害者の会が、第3次訴訟当時は会員が3000人近くに増えた。支部は2つ、専従事務局員は3人になった。原告数も2300人に増え、6つの裁判所で裁判をおこなうまでに発展させた。この訴訟に常時参加している弁護士は全国で200人を超えていた。現時点ではノーモア・ミナマタ訴訟が続いているが、運動は全国的にさらに強力に前進している。
 裁判で勝つために大事なことのひとつは、どうすれば解決するかの確信を裁判官に持ってもらうことだ。たとえば川辺川ダムの中止を求める川辺川利水訴訟は、一審の熊本地裁では原告の敗訴だった。私たちは、その敗訴からさまざまな教訓を引き出した。そして、二審の福岡高裁では、勝つためにいろいろなとりくみをおこなった。それが見事に功を奏し、国が上告できない判決を築きあげた。
 川辺川利水訴訟でも諫早開門訴訟でも、私たちはこんなことを掲げている。「われわれは事業の妨害者ではない。国民の利益のための事業の真の実現者である」というスローガンである。川辺川ダムの場合、水をほしいという農民がいる一方で、水害防止を求める住民もいる。そこで、これらの要求には「ダムでは応えられない」という事実を突きつけた。そして、ダムによらずに農民や住民の要求を実現する方法を明らかにしてみせた。川辺川利水訴訟で勝ったいちばんの原因はそこにある。
 私たちは法廷で「理屈はいらない。事実をつきつける」を重視している。一に事実、二に事実、三に事実、四にも事実、五にも事実である。理屈はいらない。理屈で裁判に勝つのなら苦労はいらない。これが水俣病をたたかってきた教訓である。
(2015年2月)



■馬奈木昭雄(まなぎ あきお)さん
 1942年台湾生まれ。1966年九州大学法学部卒業。1969年福岡第一法律事務所入所。1970年水俣市で馬奈木法律事務所開設。1975年久留米市で久留米第一法律事務所を開設。水俣病訴訟をはじめ、予防接種訴訟、残留孤児訴訟、電磁波訴訟、筑豊じん肺訴訟、三井三池じん肺訴訟、廃棄物処分場差し止め訴訟、玄界原発運転差し止め訴訟、よみがえれ!有明訴訟など数々の訴訟の弁護団長などを歴任。被害者救済のたたかいを先頭に立って続けている。主な著書は『公害・環境と人権』(共著、岩崎書店)、『たたかい続けるということ』(聞き書き、阪口由美、西日本新聞社)、『弁護士馬奈木昭雄』(聞き書き、松橋隆司、合同出版)、『勝つまでたたかう』(馬奈木昭雄弁護士古希記念出版、花伝社)など。






馬奈木昭雄さん



国営諫早湾干拓事業の開門調査を実施するまで国に制裁金を科す「間接強制」に
ついて、佐賀地裁は、漁業者側が求めた制裁金の増額を認め、現在の1日あたり
45万円を90万円にする決定を出した(右から2人目は馬奈木昭雄弁護団長)
=2015年3月24日、佐賀地裁前で(坂田輝行さん撮影)











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