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「NO!監視」ニュース 【第6号】 2004-01-30

治安の悪化は本当か?――つくられたモラルパニック」 03年12月15日学習会報告
 1215日、「治安の悪化は本当か?」と題して、龍谷大学法学部教授(犯罪学)の浜井浩一さんを講師に招いて学習会を開催しました。現在、マスコミ・学者・政治家がこぞって「治安は悪化」と宣伝し、「防犯対策の強化」と称して、警察による指導の下に商店街や駅など街のあらゆる場所に監視カメラが次々と設置されています。浜井さんは、こうした動きに対して、犯罪統計の正確な分析に基づく鋭い批判を展開しています。以下、浜井さんの講演と質疑応答の要旨を掲載します。(図表も浜井さんが作成)
 

◇今、日本の刑事政策はどこに向かおうとしているのか

 私は、犯罪学を専攻している立場から、監視カメラの問題について、@「治安が悪化している」という指摘は本当なのか? A監視カメラに防犯効果はあるのか? という2点の疑問を持っている。今日は、日本の治安がどういう状況にあるのか、犯罪統計をどう読むべきなのか、ということを指摘したうえで、現在の日本の刑事政策が「治安の悪化」を前提にしてどういう方向に向かっているのか、ということをお話ししたい。


講演・浜井浩一さん

1.主な犯罪件数は20年前と同じ――「治安悪化」説のカラクリ

 新聞紙上で「刑法犯の認知件数が300万台を超え治安の悪化に歯止めがかからない」という言い方をされる。
 1981年、私が大学に入った当時は治安などという問題は一顧だにされなかった。「治安悪化」が叫ばれ出したのは、1997年の神戸事件以来だ。しかし、97〜99年あたりは、認知件数を見ても、ほとんどの犯罪において84年のレベルから下にある(図1)。
 殺人の件数は、いったん下がって、そのまま横這い状態が続いている。傷害、脅迫に関しては、理由があるが2000年からジャンプしている。徐々に増加している侵入盗も2001年でようやく1981年のレベルに達しているにすぎない。
 

1 主な刑法犯認知件数の増加率

 

○検挙率の高低は警察方針に連動

 窃盗の認知件数が上がって、徐々に検挙率が落ちている節目は、警察の方針が変わったときだ(図2)。昭和61年に就任した刑事畑出身の金沢警察庁長官が、従来の「検挙率維持」という指示を転換して「重要犯罪対策に精力を注ぐべきだ」と指示した。これによって、昭和63年あたりから検挙率が落ち始める。平成4年の時点では、公安畑の木口長官が「検挙率は治安のバロメーターだ、頑張れ」と指示したので、短い時期だがいったん検挙率が上っている。このように検挙率・認知件数は、警察の政策によって動いているのである。
 注意してもらいたいのは、窃盗犯の検挙人数が減っていないのに、検挙件数が減っているということだ(図3)。平成
11年の桶川ストーカー事件をきっかけとして、被害者の申し出にきちんと対応しろという指示がだされた。これによって、警察のとりあげる事件数が急増し、警察が忙しくなり検挙者の余罪調査をおこなわなくなった。検挙人数は落ちていないのに検挙件数が落ちたのはそのためだ。普通は、最低でも1人の窃盗犯が20件、うまい人なら100件くらいはやっている。だから、窃盗犯の検挙率の低下が全体の検挙率の低下に激しく影響している。
 強制わいせつが、平成8年から徐々に増え、検挙率が低下しているのも理由がある。平成8年に、「被害者対策要綱」がだされ、警察署や駅に痴漢相談窓口を設けたことが大きく影響している。これによって、潜在化しやすい性犯罪を顕在化させ認知件数が急増したが、痴漢は顔見知りがおこなうものではないので捕まりにくい。だから、検挙率が急落するという傾向になった。警察庁は、「重要犯罪の検挙率が下がっている」と問題視するが、ここでいわれる「重要犯罪」の50〜60%が強制わいせつである。
 

2 増加する認知件数と低下する検挙率

 
3 窃盗の検挙件数と検挙人員
 
 

○強盗の被害実態

 殺人と並んで「凶悪犯罪」のひとつとしてあげられるのが強盗事件である。強盗事件というと、銀行強盗や少年のオヤジ狩りというイメージが強いが、一件ずつ洗えばそういうものは少なく、不良仲間同士の恐喝・傷害が多い。被害実態の調査でも、強盗は、他の犯罪に比べて、精神面・生活面での影響が意外に少ない。罪名で、犯罪を「凶悪」と分類することは無意味であることがわかる。
 長崎の事件が起きると、「怖い」という市民のコメントがマスコミに載るが、5歳未満の子供が犯罪にあって死ぬ確率は極めて低い。子供の死因のほとんどは、家庭内での不慮の事故となっている。

2.誇張したマスコミ報道が煽る「体感治安」の悪化

 警察の不祥事を契機として平成12年の警察改革で「告訴告発の受理処理の適正化と体制強化について」などの4種類の通達が出され、相談しやすい環境を整えた。その結果、相談が増えて、警察窓口では前裁きできなくなり、事件として立件されていく(図4)。余罪調査も簡略化されて、検挙率が下がっていく。これをマスコミが報道する。これによって、体感治安が悪化していく。こうして「安全神話が崩壊した」という言説がもたらされ、外国人と少年をターゲットにして厳罰化が進められている。
 犯罪報道と実際の犯罪の関係をみると、実際の殺人の認知件数は緩やかな減少傾向にあるのに、殺人に関する報道の件数はどしどし上昇している(図5)。犯罪の不安を何によって感じるか調査してみると、54・1%と最も多かったのが「新聞やテレビの犯罪報道をよく見る」とあげている。「少年による犯罪は増えたと思いますか」という質問に「非常に増えている」と回答した人の比率では、「あなたの街では」が13・5%、「世の中全体では」が62・5%である。身近なところではあまり聞いたことがないが、報道を見ると少年犯罪が増えていると感じる、ということだ。

 

4 警察安全相談件数の推移
平成15年版警察白書による。

5 殺人の認知件数と殺人・被害者報道の関係
                                                             
 

3.日本の犯罪被害率は今でも世界で最も低い

 では、国際的に見て日本の犯罪被害の実態はどういう状態にあるのか? ICVS(国際標準化された犯罪被害調査)を見ると、侵入盗は、フィンランドに次いで低い。脅迫のみを除く暴力犯罪、強盗は、日本が他国に比べて遙かに低い(図6)。
 ところが、犯罪不安は高い。一年以内に住居侵入にあう可能性を尋ねると、「ある」と答えた人が34%。「警察が役に立っているか、防犯活動を一生懸命にやっているか」という質問に対しては、予想に反して日本は評価が低い。警察に対する評価が下がり、犯罪に対する不安が上がり、厳罰化が求められる、ということが統計的な傾向として言える。

 

 ICVSによる犯罪被害率

 
4.「治安悪化」説がもたらす過剰な犯罪不安――モラルパニック

 現実の犯罪発生に関係なく、人々の間で、犯罪が増加し治安が悪化しているという言説が既定の事実として信じられ、犯罪不安が急速に高まっていくような現象。特定のターゲット(少年と外国人)を狙って日本全体がどうにかなっているとマスコミがそれを助長していく。こうしたモラルパニックは、社会が変革期を迎えているときに起きやすいといわれている。保守的社会層から「秩序やモラルが低下してとんでもないことになる」という意見が出され、これがマスコミによって助長されていく。そういうときに、誇張された犯罪統計が用いられることが多い。

5.社会的弱者が厳罰化の獲物にされている

 モラルパニックによって、厳罰化がおこなわれている。少年法改正、刑法改正、道路交通法の厳罰化などの数々の立法がおこなわれている。もともとは凶悪犯罪をターゲットにして法律がつくられるが、それが運用され始めるとネットが拡大されて、高齢者や身障者の受刑者の増大をもたらし、刑務所の過剰収容・福祉施設化を招いている。

6.監視カメラに防犯効果ナシ

 自民党や民主党のマニフェストでは、すべてを少年と外国人のせいにしている。外国人犯罪は増えてはいるが、全体に与える影響はそんなに大きくない。マニフェストの前提になっている事実認識が間違っている。対策も間違っている。警察官の増員や監視カメラ、重罰化は、犯罪学の分野では犯罪対策として効果がないというのが定説になっている。
 イギリス内務省の行った調査では、監視カメラについて駐車場をのぞいてその他の場所では効果がない。その一方では、街灯は犯罪防止に効果がある。これが最も科学的に厳密な調査をおこない、それを分析して出てきた結論である(まもなく詳細な報告書が出る)。 警察官を増やせば、間違いなく検挙人数は増えるので、犯罪は増えたと認識される。刑務所はますます溢れる。こういう悪循環がアメリカでは既に起きている。現在の状況では、財務省は、警察官の増員は認め、教員の増員は全部却下したという。根本的解決の方が減って、効果のない対処療法的なものが増えている、と私は認識している。
 

◇質疑応答

田島泰彦さん(上智大学教授) 事実に基づいた議論が必要だ。監視カメラも雰囲気が煽られる中で増殖しており非常に危険だ。

浜井さん 歌舞伎町の監視カメラについても、「粗暴犯罪についてはまったく効果がない」という統計がでている。監視カメラには、「防犯効果がある」、「検挙に役立つ」という二つの議論がある。防犯効果を上げるとなるとそこにカメラがあることを周知徹底しないといけないが、検挙に役立てるためにはわからない方がよい。この矛盾する二つの理由を持ち出して、監視カメラが必要だというのは、やはりおかしい。

司会 効果もないとすると監視カメラを増やしている狙いはなにか。

浜井さん 警察は単純に検挙に役立つと思っている。しかし、警備業界誌などに掲載される「監視カメラ設置によって犯罪が減少した」という報告は、本来比較できない統計を比較したり、逸話的な成功事例を大きく取り上げたりするケースがほとんどだ。こういうものがメディアに報道されていく。

田島さん 「治安対策」をやっているという象徴的な意味がある。監視社会の進行との関係で、将来的に使う狙いもあるのだろう。産業の利益もある。

司会 今日の浜井先生のお話で、「治安悪化」という宣伝はまったく事実ではないこと。監視カメラには防犯効果があるわけではないことが非常に良くわかった。今後、監視カメラの実態をさらに詳しく調査し告発する活動に、今日の浜井先生のお話を生かしていきたい。

 


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