読書ノススメ

インドネシアのことを「読書欲に反せずに」知りたい人のために

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かっこいい書評を書こうと思ってたんだけどむずかしくって。私の大好きなインドネシアの魅力、インドネシアを研究することの魅力、が分かる本をいくつか並べてみました。並べただけ。


門田修 『海が見えるアジア』めこん、1996年。

帯に「アジア全海域 縦横無尽の旅」とあるとおり、インドネシア周辺を中心に海からアジアを観察している著者。旅の仕方も視点も羨ましかったり憧れたりする。何が羨ましいかというと、この本の構成は「海別」になっていて、著者が国境をはじめ陸の境界線を乗り越えているところだ。たまに手にとって楽しむ本なので全部は読んでいないのだけれど、これまでも自分の研究のヒントになるような記述もいくつかあった。私にとっては、地域を見る視点が違うのでおもしろく、目を開かれる。

あえて批判をすれば、漁民や著者が縦横無尽に駆けめぐるこの海は「テロリスト」のための武器や弾薬も行き来する海だということ。海人の自由さを謳う旅人・書き手は何人かいるが、この「リアル」な視点で示唆を与えてくれる人は未だかつていない。

そんな無い物ねだりはさておき、楽しく、ぜひ地図帳を片手に想像力を膨らませながら読んで欲しい本。
(2004.4.14)

 
ユディスティラ・ANM・マサルディ著、押川典昭訳、『アルジュナは愛をもとめる』めこん、1992年。

寝不足で新幹線に乗って、しかもビールを飲んだのにこの本のおかげで一睡もできなかった。1970年代のジャカルタの奔放な若者を主人公とした小説で、「インドネシア版太陽の季節」とでもいったらいいかな。1977年に出版されてベストセラーになり、映画化もされた。ストーリーもさることながら、ジャワの影絵劇の主人公たちの名前をパロディーで使っていることも問題視され、また研究の対象にもなった。文体も「ポップ小説」と呼ばれ、軽い感じ。インドネシアの社会を研究しているのにこの本を読んでいなかったのは実は少々恥ずかしいことだ。インドネシア研究者は急いで読むべし、そうでないひともぜひ。

内容はプレーボーイの主人公アルジュナの恋愛事情。アルジュナの巧みな女の子への対処法は参考になります(笑)。 2003.11.09


ファーティマ・メルニーシー著、私市正年・ラトクリフ川政祥子訳、『イスラームと民主主義−近代性への怖れ』、平凡社、2000年。

ニューヨークのテロに前後して偶然にもこの本を読んでいた。10年前の湾岸戦争の時に反戦デモをしたアラブの女性たちのことからこの本は始まる。次の文章を読めば、爆撃を受けたイラクのみならず、アラブ世界にとって湾岸戦争がいかに大きな、ショッキングな出来事だったかが分かるだろう。そして、それは西洋の「自由や民主主義」への憧れを抱いていた知識人たちをひどく失望させた。

湾岸戦争中、モロッコのアラブ人たちは、朝起きると「おはようございます」という代わりに「マー・ゼール、アーイシュ?(まだ生きてる?)」と言い合っていた。

著者のメルニーシーはモロッコの有名なフェミニストである。サダム・フセインのような独裁者には非常に批判的だし、女性の頭を覆うベールにも否定的である。そんな彼女が書くからこそ、湾岸戦争がアラブにとっていかにひどい出来事であったか、そして今この悪夢が目の前にまた現れたことをリアルにわれわれに訴えかけてくる。そして、湾岸戦争は「自由と民主主義」の旗手を自任するアメリカの評判や信頼もひどく傷つけた。しかし、メルニーシーはあくまで楽観的である。先の文章は以下のように続く。

アラブ人にとって、生き延びるとは、自己変身することであり、これまで沈黙させれてきた人生の局面を探索することであることを、今は誰もが知っている。理性、個人の自由、個人の意見、そして、何よりも未来の世界の覇権を保証する想像力といった、今まで否定されてきた人生の局面をアラブに人々は体験しようとしているのである。

この本はインドネシア語にも翻訳され、広く読まれている。ぼくらがそこに感じる違和感、簡単には共感できない点も含めて、そのまま読んでほしい。(2001.10.02)

 

布野修司『カンポンの世界〜ジャワの庶民住居誌』PARCO出版、1991年。

これがまた楽しい本です。カンポンというと、都市にある集落とか部落、という意味で、人間関係や価値観など村の「共同体的」な要素をもっています。カンポンガンというと「田舎モノ」という悪口になりますが、インドネシア人はよく「私のカンポンでは」という言い方をします。イメージとしては、日本だと下町、みたいな感じでしょうか。この本の著者は建築学が専門ということで、カンポンの形成から現在の生活の様子まで、写真や地図、著者自身によるイラストをふんだんに使って紹介しています。人類学の成果についても分かりやすく解説してあります。さすがポップな出版社からでていることだけあって、パラパラめくっても楽しいし、読めばまた勉強になるような本です。(2001.03.24)

 

井筒俊彦『マホメット』講談社学術文庫、1989年。

この夏にチュニジアに行ったときに持っていった一冊。インドネシアには直接関係ないですが、イスラーム関係ということで。著者の井筒氏(故人)は世界的に有名な東洋・イスラーム思想の学者でインドネシア語にもいくつか訳されています。この本はもともと著者がまだ30歳台の昭和27年に書かれたもの。題名どおりイスラームの預言者「マホメット」(現在ではアラビア語の発音により忠実に「ムハンマド」という)のお話、なんですが、マホメットがなぜ偉大な宗教家として成功したのか、当時のアラビア半島でどういう存在であったか、ということをアラブの世界観や人間観から説き起こす。詩が頻繁に引用されて、効果的に情景が浮かび出され、何よりも文章が踊っている。若さゆえの元気な筆で読んでいる方もどんどん引き込まれていく、そんな本です。薄っぺらいのに480円もしますが、一読の価値アリです。

一緒にもっていった司馬遼太郎『空海の風景』(中公文庫)もおもしろかった。(2000.12.02)

 

土屋健治『カルティニの風景』めこん。

インドネシアは人とバイクが多くてほこりっぽくて落ち着かないことも多いけど、夜中にワルン(屋台)でしょうが茶をすすりながら遠くから聞こえるガムランの響きに耳を傾ける、ぼくが住んでいたソロを思い浮かべるとそういう原風景が浮かんでくる。序章の印象が強すぎるのかもしれないけど、ぼくにとってそういうところに連れ戻してくれる本です。

 

プラムディア・アナンタ・トゥール、押川典昭訳『人間の大地(上・下)』『すべての民族の子(上・下)』『足跡』めこん。

「インドネシア人」という意識が芽生えつつあるオランダ植民地における一人のジャワ人の若者を主人公にした小説。抜群におもしろいです。プラムディア全集の2巻から始まっていて、6巻の『足跡』がでたばかりで、まだ続編がある。一冊づつ一応物語は完結しているが必ず次の巻が読みたくなるはず。物語の片隅にでてくる日本の存在がわれわれにはおもしろい。今のお互いに固定化されたインドネシア・日本とはまったく違うイメージを喚起させられます。関学生は図書館に行ってよみなさい!

 

永渕康之『バリ島』講談社現代新書、1998年。

特にバリ島に行ったことのある人に読んでもらいたい本。ぼくたちがバリに行って感動する「伝統文化」「芸術」ってなんだろう。何を求めてぼくらは、西洋人たちは、バリに押しかけているんだろうか?

 

「東南アジア、海に暮らす」『ジオ』1996年9月号。

地球発見マガジンGEO。バックナンバーを買ったんだけど、写真が大きくてきれいで楽しい。もう一つの特集が「知られざるイスラム」でこれもおもしろい。執筆陣も豪華だし。あなたも一冊手元に!

 

白石隆『崩壊 インドネシアはどこへ行く』NTT出版、1999年。

インドネシア政治研究の第一人者による新刊です。98年5月の政変、そして相次ぐ暴動は一体何なのか、筋道をたてて簡潔にまとめてあります。『新版 インドネシア』(NTT出版)で使った説明方法をそのまま持ってきているので、そっちを先に読んだ方が理解しやすいでしょう。

 

鶴見良行『鶴見良行著作集1〜10』1999年。

3年ぐらい前に亡くなった鶴見良行さんの全集。面白そうなところを選んで読んでみて下さい。『バナナと日本人』(岩波新書)が有名で、これは大学生なんかにはまず読んでほしい本だけど、ぼくが好きなのは『辺境学ノート』(めこん)。これは鶴見さんが小型船をチャーターしたりしながらインドネシアの海の世界を旅するフィールド・ノートがそのまま本になっている。『ナマコの眼』(ちくま文庫)の他、日本〜沖縄〜東南アジア海域世界というのが一つ繋がっている、海っておもろいなあ、そういう世界です。フィリピンの南、ボルネオ島の北にあるスールー諸島って知ってますか? 地図で探してみて下さい。

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