LKiSが設立当初から一貫して行っているのが「変革的で寛容な」イスラームの言説を広めることを目的とした出版と教育活動である。LKiSの書籍はインドネシアの書店でよく見かけるので私はかなり長い間単なる出版社だと思っていた。実際ジャーナリストが多かったため最初は出版活動のために組織化されそこから活動の幅を広げてきた。たとえば「共に学ぶ学校」と名付けられた講座では大学生を主な対象に外部の講師を招いてイスラームの教義と民主化やジェンダーなどの「教科」を3年(6学期)にわたって開講している。
他宗教や「世俗の」NGOとも協調関係にあり、1997年には地元ジョグジャカルタのストリートチルドレンに関するNGOとして実績のあるHumana(GIRLI)などと協力して女子のストリートチルドレン対象のNGO「イナスワスティ(賢明な女性、の意)」を発足させた。ちなみに映画『青空がぼくの家』『枕の上の葉』のモデル・主役になったのはGIRLIの子どもたちである。
LKiSが現在もっとも力を入れているのが1999年の総選挙対策である。LKiSは1998年後半からアジア基金より資金援助を受け、インドネシア全国68のNGOのとりまとめ役として有権者教育のプログラムを大急ぎで組織化している。参加団体はナフダトゥル・ウラマー系だけではなく、他のイスラーム宗派、キリスト教や非宗教系の女性団体、法律扶助協会など広範なNGOが集まっている。
昨年11月にNGOの代表者を集めて開かれた会合では、民主的な選挙システムの主張を社会化すること、大衆に選挙への参加の動機付けを行い権利を行使することの自覚を促すこと、大衆の選挙参加拡大、正直で公正な総選挙の保証、の四点を目的とすることが合意された。権威主義的なスハルト体制が崩壊し、選挙が実施され民主化されるのはいいがその実行、内容がこれから問われる。最近流行語になるつつある"judil"つまり正直(jujul)で公正(adil)な選挙が望ましいのはいうまでもないが、これまでの選挙でさんざんおこってきた「暴力」が今回も大衆レベルで広く発生する可能性がある。昨年末から頻発している宗教・エスニシティーにかかわる対立・暴動が来るべき総選挙に不安な影を投げかけている。"judil"な選挙実行のための権力の監視だけでなく、今まで「参加する」ではなく「動員される」対象であった大衆の意識の改革、暴力的な対立の未然の防止策が早急に求められている。選択の自由が保証されない選挙が30年あまりも続いてきたインドネシアにおいて半年あまりでできることは限られていることを自覚しつつ、彼らは効果的な手法を探っている。この有権者教育プログラムの為のラジオ局の設置や個々の団体による地道なセミナー活動がおこなわれている。「寛容な」宗教観に基づいて、さまざまの社会集団が自律的に協力しあうことが今ほど求められているときはないのではないだろうか。
