メタボリック シンドローム
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 メタボリック シンドローム という言葉 が 最近よくつかわれるようになった。
英語の The Metabolic Syndrome を カタカナでそのまま 日本語として使ってい
るのだが漢字で直訳すると 代謝症候群 となる。
 この言葉が 公的な文書に現れたのは WHOのものが最初であろう。糖尿病につ
いての報告 Diabetes mellitus: Report of a WHO Study Group Tech Rep Ser
727,WHO,Geneva 1985 には メタボリック シンドロームについて記載がないが 
その改訂版ともいうべき Definition, Diagnosis and Classification of Diabetes
Mellitus and its Complications:Report of a WHO Consultation には 糖尿病の
成因と病態
の記述のあとに 1章をもうけて詳述されている。最初の暫定報告は 英
国糖尿病学会雑誌 Diabetic Medicine 15:539-553,1998 に掲載され、P.Zimmet教
授に その別刷をお願いしたら WHO の Department of Noncommunicable
Disease Surveilance 発行(1999.2)のものをいただいた。非営利的利用であれば 
翻訳自由ということなので 紹介したい。




      
メタボリック シンドローム (WHO)

 
高血糖があってもなくても 高血圧、中心性 (上半身) 肥満、脂質代謝異常を持っ
た人に対して 診断的、治療的な挑戦をし、疾病分類の1つとして確立したい。 こう
いう人々は 大血管障害の高リスクグループである (Reaven 1988)。
 耐糖能異常のある人 (IGTや糖尿病) は 心血管病変の危険因子を少なくとも1つ
以上持っていることが多い。この危険因子の集積にたいして シンドロームX(Reaven
1988)、インスリン抵抗性症候群、メタボリック シンドローム (Zimmet 1992)など い
ろいろな名でよばれてきた。
 疫学的研究により この症候群は 白人、アフリカ系アメリカ人、メキシコ系アメリカ
人、インド人、中国人、オーストラリア原住民、ポリネシア人、ミクロネシア人を含む広
範囲な人種グループで存在することが確かめられている (Zimmet 1992, Stern
1997)。
 1988年に Reavenは 心血管病変の危険因子の集積に対して シンドロームX と
名づけた。
    訳注  インスリン刺激によるブドウ糖取り込みへの抵抗性
         耐糖能異常
         高インスリン血症
         VLDL中性脂肪の増加
         HDLコレステロールの低下
         高血圧
          の六つを シンドロームX とよび その根本にインスリン抵抗性があ
          るとした。
中心性肥満がこの定義にはいってなかったので メタボリック シンドローム という
術語が今では支持されている。
 メタボリック シンドローム を構成するそれぞれの因子に インスリン抵抗性が共
通の病因らしいということをしめす証拠が集まってきている (Zimmet 1992, Stern
1997,Haffner 1992)。 民族の間で あるいは民族内で メタボリック シンドローム 
を構成するそれぞれの因子と インスリン抵抗性との関係の強さには違いがあるの
であるけれども。
 心血管病変の危険因子は 1つでもリスクなのであるが これらが一緒になる とさ
らにリスクが高まる (Kaplan 1989)
    訳注   上半身肥満
          耐糖能異常
          高中性脂肪血症
          高血圧
           の四つを 死の四重奏 とよび 高インスリン血症の役割を 論じ
           た。
このことは 高血糖をはじめ メタボリック シンドロームのどの構成因子をもつ患者
さんの治療にあたっても 血糖コントロールという1つのことでなしに 他の心血管病
変の危険因子を減らすよう対策をたてるべきことを示している (European Arterial
Risk Policy Group 1997)。
 血糖の異常の出現する 10年前に すでにメタボリック シンドロームの特徴がみら
れるということが証明されている (Mykk
änen 1993)。これは 高血糖と心血管病変
の危険因子の病因を考え、耐糖能異常をもつひとの 心血管病変の予防、罹病率、
死亡率をさげるために重要な点である。
 耐糖能が正常な メタボリック シンドローム を持つ人は 将来 糖尿病を発症す
るリスクが非常に高いものと考えなければならない。したがって 早期から メタボリ
ック シンドロームをしっかり管理することは 糖尿病の予防にも 心血管病変の予
防にも かなり期待がもたれる (Eriksson 1991)。

 メタボリック シンドローム の 定義
    国際的に認められた メタボリック シンドローム の定義はない。
    ここで示すのは、因果関係をしめしているのでなくて、これからの検討で改善
    していく作業定義として提案されたものである。

       糖尿病 または 境界領域の耐糖能異常
       に加えて または インスリン抵抗性があって
       その他の メタボリック シンドロームの構成因子が2つ以上ある場合
          これを メタボリック シンドローム といっている。

            訳注 これは P.Zimmet et al; Nature 414:782〜787,2001
                の Figure 2に図示されている。

      ・ 糖尿病 または境界領域の耐糖能異常
      ・ インスリン抵抗性 (人工膵島を使ったクランプテストhyperinsulinemic
            euglycemic clampで研究住民一般のglucose uptakeの最低
            四分の一以下)
      ・ 血圧上昇 ≧ 140/90mmHg
      ・ 血漿中性脂肪上昇 ≧ 150mg/dl
        および/または HDLコレステロール低値 < 35mg/dl (男)
                                 < 39mg/dl (女)
      ・ 中心性肥満  (ウエスト・ヒップ比 >0.90 (男)  >0.85 (女) )
        および/または  BMI > 30Kg/m2
      ・ 微量アルブミン尿 (尿アルブミン排出率 ≧20μg/min または
            アルブミン:クレアチニン比 ≧30mg/g)
      ・ 他に メタボリック シンドロームの構成要素として記載があるか゛
        診断基準のなかには入らない
            高尿酸血症
            凝固性亢進
            PAI-1(
プラスミノーゲン活性化因子抑制物質-1
)高値 など

 将来に期待されるもの
   メタボリック シンドローム の必須な構成要素をはっきり記述すること、それぞ
   れの構成要素がどのくらい重要か比較するデータが必要だろう。
   国際的に 中心性肥満、インスリン抵抗性、高インスリン血症の基準について
   意見統一されれば大きな助けになるであろう 




        
メタボリック シンドローム (米国ATPVによるもの)
         
Expert Panel on Detection,Evaluation, and Treatment of High Blood
          Cholesterol in Adults: Executive Summary of the Third Report of the
           National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on
           Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Choleserol in Adults
           (Adult Treatment Panel V). JAMA 285: 2486〜2497. 2001

     
高脂血症の診断と治療のガイドラインの中に 心血管病変のリスクをさげる
    ために 第一には LDLコレステロールをさげるのを 第二には メタボリック
    シンドロームをターゲットにかかげている。

     メタボリック シンドローム は 以下の危険因子が 三つ以上そろえば診断
    できる

            危険因子           定義レベル
      ・ 腹部肥満 (ウエスト周囲径)   > 102cm (男)
                            > 88cm (女)
      ・ 中性脂肪              ≧ 150mg/dl
      ・ HDLコレステロール        < 40mg/dl (男)
                            < 50mg/dl (女)
      ・ 血圧                 ≧ 130 / ≧ 85 mmHg
      ・ 空腹時血糖             ≧ 110mg/dl

     これらの脂質性危険因子と非脂質性危険因子は インスリン抵抗性という代
    謝疾患と密接に関連している。肥満とくに腹部肥満と 運動不足はインスリン
    抵抗性の発症を促進する。しかし中には先天的にインスリン抵抗性の素質を
    持っているものもいる。体重コントロールと運動療法、それぞれの危険因子の
    治療が大切である。

      危険因子のなかで 腹部肥満とか空腹時血糖とか必須項目を設定していない
    のが 米国での診断基準の特徴である。 米国での腹部肥満の基準は 他の国
    よりも太くなっているが、 この基準に達していなくても他に3基準を満たして
    おればメタボリックシンドロームとする。

      米国糖尿病学会(ADA2003)が IFG(impaired fasting glycemia)の基準を
    空腹時血糖110mg/dl以上から100mg/dl以上に改訂したので、米国心臓学会
    (AHA)はメタボリックシンドロームのATPVの診断基準の空腹時血糖の項だけ
    変更している( Circulation 112:2735-52,2005)。



      メタボリックシンドローム(日本)

      平成17年4月8日 日本内科学会総会で メタボリックシンドローム(内臓脂肪
    症候群)の診断基準が 公表された。 日本動脈硬化学会や日本糖尿病学会な
    ど8学会がまとめたもので ウエスト周囲径を 日本人の体型にあわせて 日本
    動脈硬化学会のものを採用した。

      ウエスト周囲径             ≧ 85cm (男)
                                 ≧ 90cm (女)

             で かつ 以下の 3項目のうち 2項目以上あてはまるものを
             メタボリックシンドロームとする。

       ・ 中性脂肪              ≧ 150mg/dl
                かつ/または
         HDLコレステロール        < 40mg/dl
       ・ 収縮期血圧             ≧ 130 mmHg
                かつ/または
         拡張期血圧            ≧ 85 mmHg
       ・ 空腹時血糖            ≧ 110mg/dl

      詳細は 日本内科学会雑誌 94:794〜809,2005 に
     メタボリックシンドロームの定義と診断基準 (メタボリックシンドローム診断基準
     検討委員会) が 掲載されている。




      
メタボリックシンドローム (国際糖尿病連合IDFによるもの)

      平成17年4月13〜16日にベルリンで開催された 第1回Prediabetes(前糖尿
     病)とメタボリックシンドロームに関する国際学会で、「心血管病変への時限爆弾
     を止めることができるか」と題して メタボリックシンドロームの新しいIDFによる
     定義が発表された。G.Alberti卿、P.Zimmet両教授らが世界中から21人の委員
     を平成16年にロンドンに集めコンセンサスワークショップで討議した結果である。
     討議には参加できなかったが日本の松澤祐次先生はじめ他に3先生も寄与され
     ている。

    第一部 臨床実地に使える世界に通用する定義

     表1: 新しいIDFによるメタボリックシンドロームの定義
      中心性(腹部)肥満  必須項目
         ウエスト周囲径(人種により基準が違うので表2に示す)で簡単に評価
         インスリン抵抗性の評価は日常臨床では難しいので必須項目としない
      かつ 以下の4項目のうち 2項目以上あてはまるもの
       ・ 中性脂肪 ≧ 150mg/dl  
            または この脂質異常に対して特異的な治療がなされていること
       ・ HDLコレステロール < 40mg/dl (男)
                      < 50mg/dl (女)
            または この脂質異常に対して特異的な治療がなされていること
       ・ 収縮期血圧 ≧ 130mmHg   または
         拡張期血圧 ≧ 85mmHg
            または 以前診断された高血圧に対して治療がなされていること
       ・ 空腹時血糖 ≧ 100mg/dl
            または 以前 2型糖尿病と診断されていること
          空腹時血糖≧100mg/dl であれば O-GTTをぜひ検査して欲しいが
          メタボリックシンドロームの診断に必須項目ではない

     表2: 人種・性別による中心性肥満判定のためのウエスト周囲径の基準

人種のグループ ウエスト周囲径
ヨーロッパ系
  米国で臨床的にATPVの基準を使ってもいいが
  疫学的や早期発見のために人種ごとの基準を使う方がいい
 ≧ 94cm
 ≧ 80cm
南アジア
 
中国、マレー、インド人のデータによる
 ≧ 90cm
 ≧ 80cm
中国人  ≧ 90cm
 ≧ 80cm
日本人  ≧ 85cm
 ≧ 90cm
南アメリカおよび中央アメリカの民族 
             よりきっちりしたデータが得られるまで
南アジアの基準を使う
サハラ以南のアフリカ人
             よりきっちりしたデータが得られるまで
ヨーロッパの基準を使う
東地中海および中東(アラブ)の民族
             よりきっちりしたデータが得られるまで
ヨーロッパの基準を使う

    第二部 プラチナ-スタンダード定義  研究のための追加基準
     表3; 研究のためのメタボリックシンドロームの基準追加

体脂肪の分布の異常 全身の体脂肪分布(DXA)
内臓脂肪の分布(CT/MRI)
脂肪組織バイオマーカー;  レプチン、アディポネクチン
動脈硬化惹起性脂質代謝異常
(中性脂肪高値、HDL低値を超えて)
アポB
スモールLDL分子
糖代謝異常 O-GTT
インスリン抵抗性
(空腹時血糖上昇以外)
空腹時インスリン/プロインスリン値
HOMA-IR
Bergmanミニマムモデルによるインスリン抵抗性
クランプテストによるM値
血管の調節異常
(高血圧以外に)
血管内皮の機能異常
ミクロアルブミン尿
炎症前状態 高感度CRP上昇
炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6など)の上昇
血漿アディポネクチンの低下
血栓易発症状態 血栓溶解因子(PAI-1など)
凝固因子(フィブリノーゲンなど)
ホルモン因子 下垂体ー副腎系




  メタボリックシンドローム(IDF,NHLB,AHA,WHF,IAS,IASO合同)

        Joint Scientific Statement  Harmonizing the Metabolic Syndrome.
                Circulation 120:1640〜45.2009

 
腹部肥満については 人種、性別により 各国での研究成績により 統一することは
 困難であるので、必須項目とはせず、以下の5項目のうち3項目あてはまれば
 メタボリックシンドロームとする。

   ・ ウエスト周囲径                           後述
   ・ 中性脂肪       ≧ 150mg/dl  
            または この脂質異常に対して特異的な治療がなされていること
   ・ HDLコレステロール < 40mg/dl (男)
                  < 50mg/dl (女)
            または この脂質異常に対して特異的な治療がなされていること
   ・ 高血圧   収縮期血圧     ≧ 130mmHg   または
            拡張期血圧     ≧ 85mmHg
            または 以前診断された高血圧に対して治療がなされていること
   ・ 空腹時血糖     ≧100mg/dl
            または 以前診断された高血糖に対して治療がなされていること

腹部肥満に関するウエスト周囲径閾値リコメンデーション
人種のグループ リコメンドした機関
ヨーロッパ系
IDF
≧94cm
≧80cm
コーカシアン
  (白人)
WHO             リスク上昇
                高リスク
≧94cm ≧80cm
≧102cm ≧88cm
米国 AHA/NHLBI(ATPV) ≧102cm ≧88cm
カナダ Health Canada ≧102cm ≧88cm
ヨーロッパ European Cardiovascular Society ≧102cm ≧88cm
アジア(日本も含む) IDF ≧90cm ≧80cm
アジア WHO ≧90cm ≧80cm
日本 日本肥満学会 ≧85cm ≧90cm
中国 Cooperative Taask Force ≧85cm ≧90cm
中東、地中海 IDF ≧94cm ≧80cm
サハラ以南のアフリカ IDF ≧94cm ≧80cm
中南米 IDF ≧90cm ≧80cm