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『売春暴力団』 '97 大映

監督:細野辰興
脚本:熊谷達文・細野辰興
原作:山之内幸夫
出演:永島敏行・川奈莉子・犬塚弘・田口トモロヲ・絵沢萠子・鴈龍太郎


 アレックス三部作を撮り終えたレオス・カラックスは、8年間の沈黙の後、自らの集大成とも言うべき『Pola X』を完成させた。『Pola X』に描かれた肉欲と絶望、そして、禁忌的な愛情は、余りに監督の心情が反映され過ぎていて、観客を置き去りにする。正にカラックスのマスターベーションであるこの『Pola X』に共感する事は疎か、評価する事すら難しい。確かに、原作付きの映画ではあるが、この自己完結的な世界に、他人が足を踏み入れる事は出来ない。

 やはり、近親相姦を理解するのはそう簡単ではないだろう。理性の問題、倫理的な問題、根源的な欲求の問題など、それには様々な要因が考えられるが、何よりも、単純に近親相姦という選択肢を頭に浮かべる事自体が皆無に等しいのではないだろうか。なんとも表現し難い話なのであるが、性的欲求の対象に肉親を据える事は、余りにも非現実的すぎる。しかし、それ故に虚構の世界で、しばしば取り上げられるのであり、人間は常に禁忌的なものを求めているのであろう。
 『Pola X』では、自己選択によって近親相姦の世界へ身を投じ、欺瞞に溢れたそれまでの世界を呪った。主人公のピエールは、現実逃避の方法として、エゴイスティックな感情の下に姉と交わったのだ。そして、そこに愛情という更なる欺瞞を投影しつつ。
 この『売春暴力団』で描かれている近親相姦は、『Pola X』のそれとは全く異なる。自らの心の救済の為の近親相姦ではなく、愛する者の救済の為の近親相姦。決して、現実からの逃避ではなく、現実を真摯に受け止める為の選択だ。しかし、ここに登場する者たちは、禁忌を犯す事が出来ない。現実を受け止める強さは持っていても、現実を捨て去る弱さは持っていないのだ。ピエールのように逃げたりはしない。生きたままでの逃避は認めようとはせず、死を選択しようとする。
 結局、心の交わりの留まる兄と妹には、人間的な強さを感じる。そして、兄に「(妹を)やってまえ」と駆り立てる父親の姿もまた、人間的だ。歪んだ世界を善しとしない、人間的な強さ。

 近親相姦という全くのタブーを題材にした映画にも拘らず、『Pola X』のようなペシミズムも絶望もないこの『売春暴力団』は、稀有な作品であろう。急にメタフォリカルになる後半や何の説明もない無気味なラストシーンにすら形ある健全な愛情を感じてしまうから不思議だ。