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『美少女プロレス 失神10秒前』 '84 にっかつ

監督:那須博之
脚本:佐伯俊道
出演:山本奈津子・小田かおる・渡辺良子・美野真琴・由利ひとみ・志水季里子・井上麻衣


 二十世紀最狂のスポ根ムーヴィーとしてその名を轟かすあの『ピンチランナー』を監督した那須博之が、にっかつロマンポルノ時代に産み出した意外と普通なスポ根ポルノ。“意外と普通なポルノ”だなんて訳の解らない表現を使ってしまったが、つまり、何が言いたいかというと、『ピンチランナー』の様に破綻していないのだ。そして、舞台こそ違えど、ロマンポルノという枠組みの中でしっかりとしたアイドル映画として成立しているのだ。『ピンチランナー』よりもその設定は突き抜けているかも知れないが、泣きどころに無理矢理感はないし、女優の魅力も充分に出されている。学園ドラマとして一流の作品だ。

 『セーラー服百合族』を産み出した、那須博之・山本奈津子・小田かおるのトリオであり、その題材も大学の女子プロレス部であるから、またもや清涼感溢れるレズビアンシーンのオンパレードかと思いきや、出てくるカラミといえば、アイドル研究会(女子プロレス部のスポンサー&プロモーター)のオタク共と女子プロレス部のアマゾネス達の肉弾戦ばかりで、なんとも“禁断の花園”感覚が乏しく、今一つ欲情出来ない。しかし、主人公がその乱交の場に足を踏み入れられない事が、濡れ場(オタクとアマゾネス)と物語(主人公)との間に適度な距離感を与え、それ故に、スポ根がエロスに負ける事なく成立したとも言える。本来ならば、濡れ場に必然性があった方が、物語としての面白味は出てくるものだが、この作品については、例外であると言えよう。
 アイドル映画におけるアイドル本人の魅力は決して物語そのものに関与するものではない。また、同じ事なのだが、物語の面白さがアイドルの魅力に影響する事もない。“アイドル”を“濡れ場”に置き換えても同じ事が言える。つまり、この『美少女プロレス 失神10秒前』は、完璧なアイドル映画なのである。
 泥臭い濡れ場の魅力は、それはそれでしっかりと映し出し、そことは関係ないかも知れないが、物語はそれだけで十分に面白い。そして、主人公達の魅力は、また、泥臭い濡れ場とは別の方法論で爽やかに演出する。この『美少女プロレス 失神10秒前』は、純然たるアイドル映画としての構造と純然たるポルノ映画の構造を同時に持ち合わせた、二重構造のアイドル・ポルノ映画なのだ。どんな切り口でも愉しむ事の出来る希有な作品だ。

 ちなみに、この作品の技斗を担当したのは、後に『ビー・バップ・ハイスクール』(監督は勿論那須博之)の技斗も担当する高瀬将嗣であり、驚く程に格闘シーンに力が入っている。本物の女子プロレスラーなのではないか、と思わせる程にクオリティーの高いバトルを観る事が出来る。女優陣の涙ぐましい努力の成果を堪能した。この徹底振りは、後に『ピンチランナー』でのモー娘。駅伝マジ走りに繋がるのだ。

 にっかつロマンポルノから始まって、『ビー・バップ・ハイスクール』へと移行し、『代打教師 秋葉、真剣です!』という狂作を産み落とし、そして、最新作『ピンチランナー』へと至った那須博之監督。『ピンチランナー』から二年近くの月日が経とうとしているが、次回作の話は聞かない。確かに、『ピンチランナー』の後に何かを撮ろうという気にはならないのかも知れないが、なんとか頑張って次の作品を撮って頂きたい。那須博之は“やればできる”監督である、と信じたい。