| 『カオス』 '00 タキコーポレーション 監督:中田秀夫 脚本:斎藤久志 原作:歌野晶午 出演:萩原聖人・中谷美紀・光石研・國村隼・菜木のり子・夏木ゆうな 数多くいるホラー系の映画監督の中で、最も安心して観られる作品を作るのは中田秀夫であろう。際物的なコメディホラーになる事も、こ難しいサイコホラーになる事もなく、解り易い形での恐怖を映画という非日常的なメディアに載せる事が上手い監督だ。勿論、それ故に、個性的な表現や、体系だったテーマの様なものは表に現れないので、特に印象深く感じられる事はない、という側面もあるのだが、単純に恐怖を味わいたいという願望を満たす為であるのならば、中田秀夫の作品を観れば良いと思う。黒沢清的「何がなんだか分からない」という事もないし、佐々木浩久的フェティシズムもない。しかし、確実に恐怖がそこある。 そんな安全牌ホラー監督・中田秀夫が監督した、幽霊も呪いも登場しないサイコ・スリラーがこの『カオス』である。まぁ、所謂ホラーではないので、怖い訳もないし、なんとなく事件が解決して行く様な、ありがちな作品なので、仕方ない話なのかも知れないけど、なんというか中田秀夫の“安心感”が余り感じられなかった。黒沢清の『CURE』を意識したというか、「幽霊に頼らなくても、映画が作れるんだぞ」という事をアピールしているというか。兎に角、中田秀夫らしい解り易さはなく、それこそ『カオス』になってしまっているのだ。しかも、中田秀夫は元々「カオス」的な作品を作る監督ではないので、明らかにこなれていない。なんだか、ただ単に物語をコラージュして見せられているような感覚。 ホラーにおいて軸となるものは、やはり非現実的、超自然的な現象である。その不可解なものを中心にして、現実的な人間達が振り回される様を観て、観客はそこに自己を投影し、不安や恐怖を抱くのだ。中田秀夫のホラー映画が単純に楽しめる(つまり、不安や恐怖を感じられる)のは、その軸となるべき不可解なものを解り易く、しっかりと描いているからだ。裏を返せば、その不可解なものなくして、作品は成立しない。 この『カオス』では、不可解なものが登場しない。まぁ、登場しないにしても、それが確実に存在している、という明らかな表現があれば、恐怖も伴うのだろうが、この作品ではそれすらない。全てが現実的な出来事である。中田秀夫らしくないのは当たり前であり、それを期待した観客はそこに違和感を感じてしまうのだ。なんだよ、怖くないじゃん、ってな感じで。 結局のところ、やっぱりどんなクリエイターでも得意分野というものがある訳で、中田秀夫についてはホラーがそれであるから、それ以外の物、或いは、その周辺的な物に手を出したとしても、ホラーでのクオリティーを望む事は出来ない、という事なのだろう。また、「中田秀夫=ホラー」というパブリック・イメージがその状況を増幅する。代わり映えのしない俳優陣もまた増幅に一役買っている。 この作品が様々なイメージで凝り固められた作品である事には間違いない。そのイメージが原因で今一つの印象だった、という側面もそれなりにあるだろう。しかし、そのイメージを覆す程の驚きが全く感じられなかったという点では、やはり凡作である。予告編を観て抱いたイメージそのままの作品だった。まあ、幽霊でも出てきてくれれば、単純な恐怖を味わう事が出来たのかも知れないが。 |