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『ドーベルマン刑事』 '77 東映京都

監督:深作欣二
脚本:高田宏治
原作:武論尊・平松伸二
出演:千葉真一・ジャネット八田・松方弘樹・岩城滉一・松田英子・川谷拓三・志賀勝・室田日出男・成瀬正


 原作のハードボイルド感を完全に無視して、『田舎刑事のビックリドッキリ東京見物記 〜芸能界って怖いなぁ篇〜』に仕立て上げてしまった問題作。なんと言っても、麦藁帽を冠り、黒豚を抱きかかえて、新宿を闊歩する千葉ちゃんの姿が印象的。もちろん、田舎者な千葉ちゃんだけではなく、ストリップに無理矢理連れて行かれ、まな板を強要される千葉ちゃんから、命綱一本でビルの壁面をスルスルと降りる千葉ちゃんまで、コミカルでワイルドな千葉ちゃんを思う存分満喫出来る。ラストシーンなんかは、なんだかんだでジーンと感動してしまうし。

 てな感じで、千葉ちゃんが暴れ回る映画だ、なんて事を思っていたら大間違い。勿論、千葉ちゃんの魅力は全開なのだが、物語そのものはなんと「芸能界の裏事情」なのだ。正直、『ドーベルマン刑事』の題材にされるべき事件なのか? と首を傾げたくなる。もっと闇の組織とかマフィアとか麻薬売買とかそういう事件を題材にして、ハードボイルドなバイオレンスを描かなくていいの?
 はっきり言って、芸能界の裏事情に関するエピソードはそれ程面白いものではない。芸能事務所の社長の松方弘樹は、いつもの様に狂っておらず、結構紳士的で物足りないし、新人歌手のジャネット八田は妙に浮き世離れしていて、可愛げがない。「芸能界に渦巻く陰謀なんてどうでもいいよ」と思えてくる。
 ただ、松方弘樹の側近役の成瀬正は、「有能な片腕」といった感じで、物凄くイーヴィルな空気が出ていて素晴らしかった。ジャネット八田のライバル歌手を鞭でいたぶる姿なんかは圧巻だ。「なんでもしまっせ!」感がいやらしい程に放出されていた。また、サイコな刑事役の室田日出男も素晴らしい。いや、寧ろ怖い。死にっぷりも凄まじい。あとは、ストリッパーのヒモの拓ぼん。相変わらずの人情系チンピラで、安心して観られる。
 なんだかんだ言って、やっぱり群像増劇的な面白さ。つまり、この作品も『仁義なき戦い』テイストなのだ。芸能界の裏事情や猟奇的な殺人事件を扱っていたとしても、深作欣二がメガホンをとれば、ヤクザの群像劇になってしまうのだ。過剰な暴力表現はないかも知れないが、その根底は何一つ変わらない。親分格と若者と一匹狼と敵対する組織、そして、女。これらの要素が詰め込まれれば、ヤクザ群像劇の出来上がり。観客も無意識にそれを感じているが故に、「芸能界の裏事情」が邪魔に感じてくるのだ。
 クライムアクションものと捉えずに、ヤクザ映画の亜流と捉えれば、この作品もかなりのものだ。結構な正義感を持ちながらも、生きる為にはバンバン人を殺す、という主人公も仁侠的である。マグナム一発で三人をあの世に送り込む所なんかは、兇暴なヤクザそのものだ。千葉ちゃん最兇。

 千葉ちゃんは自らを「ただのキチガイ」と言う。キチガイである事をまるで誇りに思うかの様に。これは、正にヤクザの発想だ。秩序を守る刑事は決してキチガイであってはいけない。しかし、社会を捨てたヤクザはキチガイでないと勤まらない。やっぱり、この『ドーベルマン刑事』もヤクザ映画なのだ。