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『安藤組外伝 群狼の系譜』 '98 オフィス中条・アーバンタイムス

監督:工藤栄一
脚本:森岡利行・志村正浩・工藤栄一
原作:安藤昇
出演:中条きよし・萩原流行・金子賢・濱田のり子・野本実穂乃・白竜・本田博太郎・清水健太郎・古尾谷雅人・室田日出男


 群狼の系譜と銘打ち、主演級の俳優陣を贅沢に起用するこの作品であるから、それは豪華な群像劇を期待してしまうのであるが、実際のところは主人公・小諸の独壇場である。この主人公のモデルとなるのは勿論、原作者である安藤昇先生。そう、類いに漏れず、この作品も安藤ワールド全開なのだ。

 安藤昇が原作を担当する作品において、左頬に傷を持った主人公(つまり、安藤昇)は、とんでもなく格好良く描かれる。クールで、ニヒルで、冷静で、女にモテて、喧嘩が強くて、仁義に熱い。人間臭さすらも無くしてしまったかと思わせる程に完璧な主人公は、子供が憧れるヒーロー像のように解り易い。はっきり言って単純すぎる。しかし、それでも許されてしまう安藤昇のパーソナリティは、常人に達する事の出来ない領域にあるのだろう。
 安藤昇の作品を観る度に思う事なのだが、やはりこの男は俳優ではなく、ヤクザなのである。彼は決して俳優として生きている訳ではなく、仁侠道を突き進んでいるのだ。男を極めるという事が全ての基準となっており、それは決して虚構の中の人物を演じる事ではない。従って、安藤昇が演じる人物は全て安藤昇本人であり、安藤昇が創り出すキャラクターは全て安藤昇の生き写しなのだ。安藤昇の世界の中には安藤昇しか存在せず、その分裂した世界こそが仁侠道なのである。
 究極のナルシシズムに彩られた安藤昇の世界は、確かに敷き居が高く感じられるかも知れない。エンターテインメントとして成立するギリギリのラインに立っている事も間違いない。しかし、だからこそ安藤昇の存在意義が生じるという事も否定出来ない。安藤昇の「元ヤクザの組長」という肩書きによって、安藤昇は唯一無二の存在となった。そして、唯一無二の存在であるからこそ、周囲に左右される事なく、自らの世界を十二分に放出出来るのだ。また、本物であるところの安藤昇に一目を置かない素人がいるはずもなく、安藤昇の世界を認めない事は誰にも出来ないのである。安藤昇が歩んだ道は、それだけで価値のあるものであり、安藤昇はそこにいるだけで価値がある。

 この『安藤組外伝 群狼の系譜』が全くの群像劇にならなかったという事実は、決してマイナス評価に繋がるものではない。安藤昇原作という時点で、群像劇が成立する訳がないのだ。安藤昇という男の道が描かれるだけで十分であるのだ。

 ヴィヴァルディの『2つのギターのための協奏曲』に乗せて、自分を貫く主人公小諸の姿に、安藤昇大先生の影を想いながら、この作品を観る。中条きよしに不満が残る。本物の安藤昇が観たくなった。