目次

『実録・安藤組外伝 餓狼の掟』 '02 東映東京

監督:梶間俊一
脚本:田部俊行
企画:安藤昇
出演:哀川翔・大河内奈々子・今井雅之・青田典子・渡辺裕之・小西博之・小林勝彦・本田博太郎・安藤昇


 かつては菅原文太が演じた伝説の“ステゴロ”ヤクザ、花形敬を哀川翔が演じる。戦後間もない渋谷の街に、最大級の侠気で最大級の恐怖を与えたその男の物語は、壮絶極まる物であるが、この作品の花形は、哀川が演じるという事もあって、かなりスタイリッシュな印象を受ける。決して、文太の様な泥臭い雰囲気ではない。確かに、花形敬という人物を描くのであれば、哀川翔の持つクールさやカッコよさというものは、逆の効果を果たしてしまったのかも知れない。あくまで凶暴であり、喧嘩が何より好きで、相手を打ちのめす事のみを欲している(というイメージである)花形敬は、スタイリッシュな魅力よりもバイオレントな魅力をスクリーンに映し出す方が正統であろう。そして、それは完全なクールである安藤昇とのコントラストを産み、物語の成立を齎す。『安藤組外伝 人斬り舎弟』における文太と安藤先生の対比は物凄く美しかった。あれが最良の策だったのだろう。
 哀川翔の花形に文太程の狂気はない。しかし、だからと言って、物足りなさや違和感を感じる事はなかった。哀川翔は十分に花形敬に見えた。花形の対となる安藤昇が渡辺裕之である、という点が哀川の花形を正当化するのだ。モノホンである安藤先生に対するのであれば、解り易すぎると思える程の凶暴さが必要であろう。しかし、今回の安藤先生は渡辺裕之である。つまり、それはモノホンなのではなく、役者なのだ。だから、それに対して役者・哀川翔が自らのパーソナリティのフィルターを介した花形敬をアウトプットする事の方が、単純な狂気を露呈する事よりも正しいのだ。

 というのが、哀川演じる花形だけに対する感想で、作品全体を通してみると、その印象はかつての東映ヤクザ映画の様相を呈している。例えば、アクションを手持ちのカメラで撮り、思いっきりブレさせたり、引きの視点は極力避け、人間の顔を中心に映したり。そして、それもやはり京都撮影所の持つ、肉の匂いに塗れ、そして血と汗に彩られたものではなく、どちらかと言うと、東京撮影所で撮られた作品の妙な無国籍感や現実離れした台詞回しを想起させるものだ。
 これは、やはり安藤先生の持つ例のダンディズムの究極の様な雰囲気に起因するものであろう。今回は珍しく、全編に渡って出演しているし(まぁひとつのシーンなのだが)、ナレーションも担当しているし。最近の安藤組関連作品の中では、安藤先生のこだわりが最も伝わってくる。
 こういう東映的な新作を観られた事を嬉しく思った。