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『HYSTERIC』 '00 レジェンド・ピクチャーズ ベンチャーフィルム

監督:瀬々敬久
脚本:井土紀州
出演:小島聖・千原浩史・鶴見辰吾・村上淳・寺島進 ・余貴美子・阿部寛


 いつの間にやら、日本映画の次世代を担うとまで呼ばれるようになった瀬々敬久監督が、その期待を裏切らぬよう、結構な気合いを入れたと思われるこの作品。小島聖だなんていう、この手の映画にハマり過ぎている有名な女優を主役に据えるところなんて正にその表れであろう。また、断続した時間軸の積み重ねで物語を集約させる手法などは、決して個性的なものではなく、所謂“映画的”なものであり、観る者が簡単にリアクションをとれる様な“受け”を狙ったものであろう。確かに、『雷魚』での退廃的なエロティシズムの様な瀬々敬久としての個性が十分に発揮されている訳ではなく、寧ろ単純に一つの作品として楽しめる類いのものだ。

 千原浩史には『ポルノスター』でのイメージが付きまとい、小島聖には『完全なる飼育』のイメージが付きまとう。この作品での二人も、やはりそれらのイメージを引き摺った役柄を演じており、それはそれで安心出来るものでもあるのだが、なんのインパクトも感じられないのも確かだ。また、矛盾するのだが、『ポルノスター』での千原浩史が余りに不可解で非人間的な存在であった為、この作品においてもその驚く程の怪物感を期待してしまう、というのも事実である。ところが、いとも簡単に登場する母親によって、この男が単なる人間であるという事に気付かされ、一気に興醒めしてしまった。折角、「パッと遊んで、パッと死ぬ」なんていうアナクロなパンク・スピリットを堂々と掲げているのだから、家族との縁くらい切っておいて欲しいものだ。『ポルノスター』ではそこを完遂出来ていた分、この作品での“人間性”が残念に感じられた。
 でも、この人間性っていうやつも、この作品が実際に起きた事件(青学生殺人事件)にインスパイアされて作られたフィクションであるという背景があるからで、つまり、この登場人物は映画の中のヒーローではなく、他人よりちょっぴり破天荒なだけの単なる一般人だった、という事である。当然といえば当然の事だ。『仁義なき戦い』だって鬱陶しいくらいに人間臭かったし、『山口組外伝 九州進攻作戦』の夜桜銀次だってとんでもなく強いのかと思いきや、呆気無く殺されてしまうし。人間は所詮人間なのだ。DNAからして決定的に異なっている怪物には到底なれない。その点で事実というものは物語に枷を履かせるものなのかも知れないが、リアリティーという点では、この上なくおいしい素材となる訳であり、だからこそ東映実録路線が支持された。
 つまり、僕が一体何を言いたいかというと、この『HYSTERIC』は平成の実録路線なのだ! という事である。そして、『雷魚』『汚れた女』と実際にあった事件を題材にした作品を監督する瀬々敬久は平成の深作欣二だ! いや、全く作風は違うのだけど、なんとなくそう感じてしまった(というか、平成の中島貞夫でも何の遜色もない)。

 色々と難くせをつけたくなる様な作品である事は確かなのだが、この作品を観て瀬々敬久の本気っぷりは伝わったし、瀬々敬久を見直す事も出来た。本当に瀬々敬久が日本映画界を引っ張って行くかも知れない……、と思えた事だけでも大きな収穫である。