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『日本の仁義』 '77 東映京都

監督:中島貞夫
脚本:神波史男・松田寛夫・中島貞夫
出演:菅原文太・鶴田浩二・千葉真一・林隆三・池波志乃・野坂昭如・フランキー堺・藤田進


 仁侠路線から実録路線へとシフトした東映のヤクザ映画。プログラムピクチャー全盛の時代では、“路線”こそが必須であった。しかし、時代は遷って、プログラムピクチャーの集客が頭打ちになってきた70年代後半、ポスト実録路線的に登場したのが、この『日本の仁義』が含まれる新感覚仁侠映画“大作路線”である。つまりは、ヤクザ同士の抗争だけをロマンチックに描くのではなく、政治家、企業などのカタギの要素を絡ませ、ヤクザ映画ファン以外の観客も視野に入れたものだ。
 の筈だったんだけど、この作品に関してはもう完全に普通のヤクザ映画。結局、大作路線っていうのは大して人気を獲る事なく終焉する。そりゃあ仕方ない。そもそも東映の映画映画館に足を運ぶ客ってものはヤクザとか暴力とか女の裸が観たいのであって、それ以外の要素にあんまり魅力を感じられないのだから。

 物語は、大阪の二大組織の抗争とその代理戦争がメインとなる。先代の組長が藤田進で、二代目は菅原文太。鶴田浩二は文太の兄貴分、千葉ちゃんは若頭。
 これらの人物の中でいちばん狂っているのは文太。鶴田浩二はあいも変わらぬ仁義に厚い仁侠そのもの。で、千葉ちゃんはどうかというと、狂った親分の下でいろいろと苦労を重ねる役回り。今回は全然狂ってはいない。流石に弱々しさこそは発揮しないが、いつもの千葉ちゃんの魅力を期待すると肩透かしを喰らう。誰も殺さないし、チャカすら弾かないし。泥酔した新聞記者・林隆三(こういう人物が登場する辺りは“大作路線”っぽい)に散々絡まれてキッスまでされちゃう千葉ちゃん。それをまた本当に楽しそうに志賀勝が眺めてる。ありゃ演技じゃなくって、本気で面白がってるに違いない。滅多に観られないものを観られる作品。そりゃあ役者だってニヤリとしてしまう。
 千葉ちゃんのノーマルっぷりを補うかの様に、素晴らしい狂いっぷりを見せるのは文太さん、と言いたいところだが、特にあれこれ言及するは程狂っていない。筋が通らない様な事はしないし、自滅に向かう訳でもない。悲劇的な結末を迎えるが、それも決して自業自得の狂犬ゆえの最期ではなく、誤解から生じたもの。結局は普通のヤクザなのだ。大きな組織のてっぺんとしてはほんのちょこっと血の気が多くて、落ち着きがないだけなのだ。
 そんなら、この作品でいちばん狂っているのは一体誰なのか。それは、文太の二号から本妻へと繰り上げられる池波志乃だ。若い衆(拓ぼん)を無理矢理同伴し、文太の浮気相手のアパートを襲撃、その女を拓ぼんにレイプさせようとする! その上、大いに酔っぱらってスナックの備品を壊しまくる。まったくもって野獣そのもの。登場シーンが結構しっとりとしていた分、後半の暴走の衝撃度は相当高い。意外なところでいいものを観させてもらった。

 このお話は比較的綺麗にまとまった仁侠物語である。どのヤクザ達も決して道を外す事はなく、自らの仁侠道を貫いている。しかしながら、それが互いに拮抗し合い、結果として狂ってしまうのだ。とても悲しい仁侠映画だ。特にラストで鶴田浩二がカチ込みに行くシーンなどは悲愴感に溢れまくっている。そのラストに至るシークエンスは正に中島貞夫が好きそうな感じで格好良いです。
 破天荒型ヤクザが登場しない、という点では物足りなさもあるし、大作路線としての体裁は保たれていないし、全体を通してなんとなく予定調和的な緩さが感じられるのも確かだ。でも、やっぱり安心して楽しめるヤクザ映画である事には違いなく、その上、いつもの役者さん達の違った側面を観られるのであるから、充分に面白いとは思います。結構好きです。