目次

『県警対組織暴力』 '75 東映京都

監督:深作欣二
脚本:笠原和夫
出演:菅原文太・松方弘樹・梅宮辰夫・山城新伍・池玲子・成田三樹夫・田中邦衛・佐野浅夫・金子信雄


 説明する必要もない。マスターピースオブ東映実録路線。本編101分に、深作・笠原・文太という『仁義なき戦い』トリオのエキスが過飽和に近い状態で溶け込んでいる。でも、喉が渇いて仕方ない、みたいな超絶コッテリスープではなく、意外や意外、あっさりとしたスープに仕上がっている。トンコツで仕込んだ野菜スープ、ってな具合の驚くべき矛盾を実現してしまった奇跡的な作品だ。ヤクザ映画を観ない人が観ても充分楽しめる程のあっさりさと、三角マークの奴隷を納得させるだけのコクを持つ。『仁義なき戦い』シリーズを観る前に観るべき作品なのかも知れない。

 物語の説明は必要無いだろう。その他の実録路線の様にナレーションを加えないと説明出来ないくらいの複雑さは持ち合わせていない。ただ観るだけで理解出来る親切な作品だ。
 でも、だからと言って単純な話でもない。登場人物ひとりひとりのキャラクターが浮きだっていて、それぞれにストーリーがある。それが複雑に絡み合いつつ、主軸となる刑事とヤクザの友情へと繋がって行く。このカラクリが本当に気持ちよいのだ。深作的群像劇のフォーマットをコンパクトに(尺的に)凝縮しつつも、そのスケール感は縮小していない。『仁義なき戦い』での“サーガ”的要素、つまり固定ファンに対するサービスを、1本の作品としての面白さに転換している。だから、無駄な説明は一切ない。でも、説明不足という事ではない。全ては緻密に計算された笠原和夫の脚本で説明されている。深作欣二はそれを単に“実録”というキーワードによって破壊的に表現するのではなく、丁寧にそしてワイルドに表現している。深作欣二の当時の気持ちを勝手に代弁させて頂くのであれば、「目の前が開けた」といった感じではなかろうか。思うところを映像にぶつけたという衝動的な『仁義なき戦い』から作品としての実録路線へのシフト。面白い映画というものを認識した瞬間だったのではなかろうか。誠に勝手な想像でごめんなさい。

 そんな訳で、とにもかくにも群像劇的要素が十二分に楽しめる。個性溢れるそれぞれのキャラクターが蔑ろにされる事もないし、描かれる姿もキャラクターの器にフィットしたものである。宍戸錠の大友の様にキャラばかりが過剰で、微妙に活かしきれなかった、なんていう事は一切ないのだ。
 拓ボン。取調室で全裸にされて文太&新伍にボコボコにされる。これこそ正しく拓ボンの真骨頂であろう。間違いなく本当に蹴られ殴られている。
 片桐竜次。基本的には、いつもの様に親分の後ろですごんでいるだけなのだが、いざ戦争が始まると大活躍。前代未聞の自転車チェイスの末、生首を刈られる! 凄惨!
 成瀬正孝。これは最高。警察に犬になってしまい、組の情報を横流ししている内に的にかけられる。そして、最期。『こんにちは赤ちゃん』が鳴り響く女の部屋でブスリ! もんどりうってもまたブスリ! ヤクザ映画史上に残る最も美しき死に様であった。
 池玲子。松方に「ドー! ドー!」とケツを叩かれながら、後ろから突かれまくる! 更に、松方の指示で文太の女になった後は、文太の下腹部をなんとも愛おしそうに弄ぶ。ヤクザ映画史上に残る最大級の母性である。
 田中邦衛。おかま。
 こんな感じでサブキャラにスポットを当てながらも、やっぱり作品の中央にいるのは文太・松方・梅宮である。その3人が決して色褪せないし。その3人がサブキャラに喰われる瞬間も皆無。その正統的な最高のバランス。本当に、マジで、最高に面白い。

 多少難を言えば、松方の対抗勢力である成田三樹夫率いる川手組(後ろで糸を引くのは山盛まんまの金子信雄)が、物語後半で殆ど蚊屋の外になってしまっている点。そこだけは、「もうちょっと描き様があったんじゃないの?」と思った。まぁ全然許せるけどね。オカルティックなラストも全然許せちゃう。だって面白いんだもの。

 何度も何度も観ている映画なんだけど、今回DVDで観返した。ビデオテープの様に劣化がないってのは恐ろしいもので、色が鮮やかすぎて何だか新作を観ている様な感じでドキドキした。