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『なで肩の狐』 '99 エクセレント

監督:渡辺武
脚本:吉川次郎
原作:花村萬月
出演:椎名桔平・哀川翔・洞口依子・鶴見辰吾


 中原昌也の「ある場所に花束が…」が三島由紀夫賞を獲ったという話を聞いた時は、驚きを隠せなかった。僕にとって中原昌也と言えば、暴力温泉芸者の中原昌也であり、ノイズミュージックの中原昌也であり、レディオ・バードメンとシュトックハウゼンとサニーデイ・サービスを続けて選曲する中原昌也であったからだ。remix誌上で明大前にあるアヴァンギャルド系レコードショップ「モダン・ミュージック」の店長の悪口ばかりを書いていた中原昌也が小説で賞を貰うとは。とにかく驚いた。
 そして、中原と同様に驚いたのは、花村萬月の芥川賞受賞である。花村萬月と言えば、ヤクザネタ、或いは音楽ネタの軽いエンターテインメント作家だとばかり思っていて、まさか純文学に手を出すとは想像もしなかった。それなのに、「ゲルマニウムの夜」で芥川賞である。実際に、裏社会で生きてきた花村が文壇で最高の評価を受けるとは。なんだか、色々と変わってきたのかな、何かが新しくなってきたのかな、と漠然に感じた出来事であった。

 この原作『なで肩の狐』は花村萬月エンターテインメント路線が最も顕著に現れた作品だ。比較的理解し易い登場人物の心。エキセントリックに描かれた暴力。確かに、通勤電車で消費される類いの小説なのかも知れないが、それだけには終わらない、読み終わった後に「何か」が残る作品である。
 しっかりとしたエンターテインメント性とキャラの立った登場人物を持ち合わせるこの作品は正に、映画向けの小説であるように思える。安心して楽しめる作品ができるはずだ。

 原作を先に読んでいた僕にとって、この配役には正直驚いた。キツネの椎名桔平は良いとしても、まさか徳光が哀川翔とは。しかし、観ている間にその違和感が薄れて行くのも、また絶妙であり、これはストーリー展開の面白さによるものなのかと、いつしか全てを納得していたから不思議だ。

 などと消化不良に褒めてみたが、実はこの映画、とても表現し辛い。とにかく、普通なのである。特徴という特徴もなく、ただ普通に楽しめる。この安心感は十分に評価されるものなのかも知れないが、物足りなさは否めない。花村萬月の原作を生かさず殺さずの映画化なら、やらない方がマシだ!とも言い難い程に普通だ。全く困ったもんだ。もし、中原昌也の小説を映画化して、こんなに普通なものが出来上がったら、正直がっかりなのだが、軽いエンターテインメント路線の花村萬月だから仕方ないか、と思うしかない。困ったもんだ。