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『野良犬』 '02 ジーピー・ミュージアム

監督:藤原健一
脚本:藤原健一・山口伸明
出演:大沢樹生・持田真樹・菅田俊・江原修 ・菅原加織・広瀬哲朗・せんだみつお・北村一輝・大和武士・鶴見辰吾


 ヤクザ映画にヤクザ映画の文法がある様に、時代劇には時代劇の文法がある。武士には武士のキャラクターがあり、岡っ引きには岡っ引きのキャラクターがあり、代官には代官のキャラクターがある。それらは決して崩れる事なく、しかもその服装や顔などで、その人物がどの職業でどんな地位にあるかが一見にして理解出来る。従って、職業的なキャラクターが個人的なキャラクターよりも強くなり、完全なるパターン化が為されている。様式美の世界だ。
 この世界の中では、物語を進めるにあたってそれぞれの役割が明確化されており、それに従って物語は登場人物達の“時代劇的”な口調による説明によって進められる。人物描写がほとんどないので、目的となる事件なりなんなりを説明し、それを解決したり成し遂げたりする事にだけ向かって時間は進む。物凄く単調な作業ではあるのだが、キャラクターの位置付けが異常に解り易いが為に、空気が弛緩する事なく、滞りなくクライマックスへと誘われる。

 で、この作品。基本的には、時代劇の文法に乗っ取るものである。浪人はそれらしく影を持ち、岡っ引きはそれらしく軽い感じで、代官はそれらしく小賢しい。そして、やはり台詞も時代劇的なものであり、人物の細かい描写もそれ程なく、ほぼ全てが説明的な台詞によって物語が進む。物凄く単調である。しかしながら、“時代劇的”な解り易さは皆無であり、様式には乗っ取っているものの、様式美にまでは達していない事は一瞬で理解出来る。
 それはなぜか、と考えた時、いちばん最初に思い浮かぶのは、そのテンションの低さであろう。
 時代劇の美学はディフォルメの美学である。SF映画の宇宙船がメカメカし過ぎるのと同様に、時代劇に出てくる人々はあまりにも時代劇的過ぎる。この作品においても見た目やキャラクターの設定は時代劇的ディフォルメされてはいるのだが、全体的なテンションが低い為に、その全てが伝わらないのだ。それこそ映画美学校界隈の「緊張しまくったローテンション日本映画」の様な感覚なのだ(東映のVシネマとは全く逆のベクトル)。なのに、(間接的な)内面の描写が少ないので、何がどうしているのかあまり伝わらないのである。そういう意味では物凄く不親切な映画だ。時代劇としては難しすぎる。
 しかしながら、「時代劇というが余りにも過去のモノとなってしまっている現在においての時代劇」という可能性を考えると、なかなか興味深くはある。コメディ的ヒューマンドラマにする事も、スタイリッシュアクションにする事もなく、あくまで従来の時代劇の様式美を尊重しつつ、その先を目指そうとしているという意欲がとても面白い。決して、大成功とは言えないのだが、今後の期待は大きい。

 このところは“実録モノ”が大きなシェアを占めているVシネマ業界で、幾つかの新たな試みが目立っている。SF的なもの、アクション的なもの、そして時代劇、などなど…。特に、時代劇はシリーズ展開がし易いので、Vシネマ向きである。これからの時代劇Vシネマがどんどん熱くなって行くを望む。