| 『復讐 The Revenge/消えない傷痕』 '97 KSS 脚本・監督:黒沢清 出演:哀川翔・菅田俊・小林千香子・大森嘉之・大杉漣 『復讐 The Revenge/運命の訪問者』の続編のはずである。続編のはずであるのだが、違和感を感じざるを得ない。一応物語は続いているかのように見えない事もないのだが、どこか納得の行かない、表現し辛い不安を覚えるのだ。それは物語全編に渡って言える事で、例えば、明確な伏線と明確な謎解きの一つでもあれば、納得できるのかも知れないが、全てのシーンが言葉足らずで、何一つ丁寧な説明をしてくれない。観ている者は目の前で行われているものが一体何なのか、この人達は一体誰なのか、そればかりに気を取られてしまう。とても、観客に優しくない作品だ。しかし、これは正に僕が監督黒沢清の術中にはまってしまったと言う事なのだろう。 前作もそれなりに不可解な恐怖を描いた作品であったが、解り易い復讐劇のおかげで不安に陥る事こそなかった。ところが、この作品では何の伏線もなく淡々と物語が進んで行く。復讐劇の続編を期待してこのビデオを手に採った僕は困惑するしかない。しかも、前作では刑事であったはずの主人公安城伍郎(哀川翔)は、なぜか侠客となり殺しに手を染めている。不可解だ。 実際、物語は安城の新たな復讐劇へと収束するのだが、もはやそこに主題が置かれていない。それは正に安城の心の中を反映しているかのように。家族を殺され、妻を殺された安城には、生きる目的などなかった。絶望だけが存在する何もない世界に生きていた。そんな虚無の世界に殺し・復讐という命題を与え、無理矢理に生きている安城という男。安城の中で復讐という行為はひとつの目的に据えられているが、実際にはそれすらも無意味で、それは家族を殺され、自分だけが生き残った事に対する罪悪感へのエクスキューズでしかない。 黒沢清はこの安城の空虚感を表現したかったのだろう。目的もなく生きる事の無情。目的もない人生に目的を持たせる事の悲しみ。からっぽの世界を描くのに、過剰な演出や劇的な物語は邪魔になる。からっぽであるからこそ、淡々と物語が進み、あっけないラストを迎えるのだ。この作品を観る者は、あまりに起伏の少ない映像に戸惑うかも知れないが、自分の人生が決してからっぽではないという事に気付くはずである。 この作品は、派手でゴージャスな所謂映画的な非現実とは逆のベクトルを持つ。しかし、だからと言って現実的である訳ではない。豪華で派手な非現実もあるが、陰鬱で地味な非現実もあるのだ。そんなネガティヴな非現実でも究極までベクトルの長さを伸ばせばエンターテインメントとして成立する。この作品によって証明されたのだ。 |